【アート通信ー6: 「智美術館」】

正式名称「菊池寛実記念 智美術館(きくちかんじつきねん ともびじゅつかん)」、ホテルオークラの裏に2003年に開館しました。

敷地への入り口付近

こちらは、実業家であるオーナーの陶芸コレクションを母体に、現代陶芸の紹介を目的に創られた個人美術館です。
規模は大きくありませんが敷地に一歩足を踏み入れた時からオーナーの造形への想いが感じられます。


美術館が入っている建物、入口付近

玄関に向かうアプローチは金属と石のコラボレーションで、鋳金作家:北村真一さんによるもので、玄関の自動ドア両脇の造形も同氏によるものです。
お客様を迎えるオーナーの丁寧な気持ちが伺い知れます。

北村真一さんによる玄関アプローチ

北村真一さんによる自動ドア両脇の作品

そして玄関を入りまっすぐ進んだ廊下の先で、もう一度私たちを迎えてくれるのが篠田桃紅さんの書です。
篠田桃紅さんの作品「ある女主人の肖像」

タイトルの‘女主人’とはこちらのオーナーを意味しています。
ここで作品がオーナーに代わり、お客様を迎え入れます。

右手にはレストランがあり、見事な庭園を眺めながらゆっくりと食事を楽しむ事が出来ます。
(レストランのみの利用も可能です。)

レストラン「ヴォワ・ラクテ」

レストラン「ヴォワ・ラクテ」より見える庭の景色

左手に進むと小さなミュージアムショップと受付があります。
そして展示室に向かう階段室でも新たなもてなしがあります。
壁面は銀箔に篠田さんの作品がコラージュされており、宝石の様に美しい階段の手すりはガラス作家:横山尚人さんによるものです。
照明の光を受けて光り輝きながら観覧者を会場へと導きます。

智美術館パンフレットより

空間へのこだわりは展示空間へ入っても続きます。
全体のデザインはスミソニアン自然史博物館の空間構成も手掛けているリチャード・モリナロリさんによるもので、その美しいデザインに導かれ観覧者は迷うことなく作品に集中出来ます。

こちらの美術館のすばらしいところは、ビエンナーレを開催したり、専門家の話を聞くサロンを開いたりと、独自の方法で工芸界に新たな風を吹き込もうとしているところです。
隔年開催するビエンナーレは、作家の発掘という役割も果たしています。

7月24日(日)までは「秋山陽 アルケーの海へ」が開催中です。
「秋山陽 アルケーの海へ」フライヤーより
会期4か月弱に、準備は5年近くかかったそうで、丁寧に練られた構成です。
近年よくみられるパッケージ化された展覧会とは一線を画している様に感じました。
*7月16日(土)には作家によるギャラリートークがあります。
作家から直接作品についての話を聞ける貴重な機会ではないでしょうか。

魅力はこれだけではありません。
敷地内には大正15年に竣工された登録有形文化財の「西洋館」が木陰に静かに佇んでいます。
「西洋館」玄関より

「西洋館」庭側より

昭和54年の火災により2階の一部を焼失してしまいましたがその後、菊竹清訓さんの指導の元に手直しがなされました。
オーナーの個人物件で、インテリアなども当時の構成で賓客のもてなしなどに使用されているそうです。
通常非公開ですが、年に何度か修復にも携わった建築家の解説付きで公開されています。
建物・インテリアの歴史を知るだけでなく、タイムスリップしたかの様な不思議な体験が出来るので、こちらもお勧めです^^。

菊池寛実記念 智美術館

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