投稿

【アート通信ー97:「国立西洋美術館」】

イメージ
 第97回目のアート通信は、東京都・上野の「国立西洋美術館」からです。 「国立西洋美術館」本館 外観 「国立西洋美術館」は、戦後、フランス政府に差し押さえられていた松方コレクション(西洋美術)を寄贈返還してもらう為につくられた美術館で、1959年に開館しました。 世界的建築家、ル・コルビジエ (1887-1965) による日本唯一の建物でもあり、2016年に世界遺産に登録されています。この世界遺産登録は、彼の7カ国に渡る17作品に対して「ル・コルビジエの作品ー近代建築運動への顕著な貢献ー」として行われており、「国立西洋美術館」はそのうちの貴重な1作品なのです。 という事で、今回は展示物ではなく、ル・コルビジエ が設計した建築自体に焦点を当ててご案内します。 等間隔にコンクリート円柱が並ぶ、本館エントランス 常設展会場 入り口付近 常設展会場は、本館と新館に渡って展開していますが、ル・コルビジエが設計したのは、本館です。会場に入るとそこは等間隔に円柱が並ぶギャラリーのような吹き抜け空間。 ここでは主にロダンの彫刻が展示されています。 三角形のトップライト 見上げると、三角形のトップライトから自然光が差し込んでいます。柔らかな明るさはこのお陰でもあったんですね。 2階へのスロープ そして彫刻の背後にあるのが、2階の展示場へ向かうスロープ。ベビーカーや車椅子もOKの、ル・コルビジエの建物ではよく見られるデザインです。 スロープの折り返し スロープの上からエントランスを見下ろす 2階の展示空間 2階は、先ほどの吹き抜け空間をぐるっと回るようにデザインされており、柱はやはり等間隔で並んでいます。柱のない展示空間に慣れている私たちには海外の古い建造物の様にも見え、新鮮ですね。 右側に見えるすりガラス状の窓は明かり取り。元は自然光を取り入れる為のものでしたが、現在は作品保護の観点から人工光を使用しているそう。 バルコニー 途中、中2階の様な位置にバルコニーがあり、ここにも作品が展示されています。また、ここから1階のエントランスを見下ろせるだけでなく、このバルコニー自体が空間に変化をもたらしていますよ。 中3階へ続く階段 秘密基地のような中3階もあります。会議室や小さな作品展示の為に作られたそうですがが、現在は非公開。利用したら面白そうな空間だけに残念です。 モデュロール ル・コル

【アート通信ー96:有楽町ウィンドウギャラリー2024】

イメージ
 96回目のアート通信は、現在、東京・丸の内の『丸の内仲通り』で3月24日まで開催されている「有楽町ウィンドウギャラリー2024」からです。 一保堂茶舗店内にてStphanie Quayle氏の作品 「有楽町ウィンドウギャラリー2024」は、丸の内仲通り沿いの8店舗に、その店舗に合ったアーティストの作品が展示される期間限定限定のアートイベントで、今年で3回目。「TOKYO ART WALK」の一環として開催されています。 今回は、その中から特に3店舗を選んでご紹介しましょう。セレクトされたアートと店舗の商品との相性にも注目ですよ! 1717年創業のお茶の老舗「一保堂茶舗」 一保堂茶舗店内にて Stphanie Quayle 氏の作品 粘土で作られた Stephanie Quayle氏の作品が、 漆喰壁を背に、まるでずっとそこにいたかのように佇んでいます( 画面左側 ) 。 紀元前より存在する「茶」と、同じく紀元前より存在する動物たちが醸し出す不思議な空気感です 。 カウンターのStephanie Quayle氏の作品 とは言え、この招き猫ならぬ招き猿が、主人のように鎮座し、お客を迎えしている様子には思わず吹き出してしまいました。 シューズ店「Allbirds」 「Allbirds」は、ウールなどの自然素材を使うだけでなく、生産における二酸化炭素の排出量ゼロに向けて邁進している会社。 「Allbirds」店舗に展示されている 河本蓮太郎氏の作品 『裂き織り』を用いた 河本氏の作品 河本氏は、『裂き織り』の技法を用いて、それを美しい作品へと展開させています。 『裂き織り』とは、江戸時代より受け継がれる織りの技法で、古布を手で裂き紐状し、それで新たな布を仕立てていく手法。 布が貴重だった時代は当たり前の事として、様々な方法でボロボロになるまで利用されました。 「Allbirds」のシューズと河本氏の作品の展示 「Allbirds」の精神から生まれたシューズと、裂き織りを用いた河本氏の作品が見事に一体化していますね。 「有楽町ウィンドウギャラリー2024」のフラッグ 作品が展示してある店舗は、こちらのフラッグが目印。 「boi de qui」にて展示されている浅野友里子氏の作品 「boi de qui」は、 一見花屋に見えない花屋です。そしてそこに展示されているのは 浅野友

【アート通信ー95:静嘉堂@丸の内「岩﨑家のお雛さま」】

イメージ
 現在、静嘉堂@丸の内にて3月31日まで「岩﨑家のお雛さま」展が開催されています。 お人形はもちろん、そのお道具も目を見張るものばかり!また、卯年の還暦祝いに注文された御所人形の愛らしさも必見ですよ! *写真は全て美術館の許可を得て撮影。 五世大木平蔵 (ごせいおおきへいぞう) 「 岩﨑家雛人形のうち 内裏雛 (だいりびな) 」(昭和初期) 岩﨑家のお雛さまは、稚児雛( ちごびな)、 可愛らしい子供の姿です。 三菱第四代社長・岩崎小彌太 (いわさきこやた) が孝子夫人の為に京都の丸平大木( まるへいおおき) 人形店に注文したもので、第2展示室に、内裏雛、随身、五人囃子、三人官女、仕丁が展示されています。 *「丸平大木人形店」は、江戸時代に京都で創業。京都で最も古い人形店。屋号は「丸平」 岩﨑家 のお雛さまの お道具 そして見事なお道具は、第1展示室に展示。精巧な作りに目を奪われます。 五世大木平蔵「小袖箪笥・衣裳箪笥」(昭和初期) 人形のお道具とは思えない立派な箪笥。紋は 岩﨑家 の替紋『花菱紋 (はなびしもん) 』。 五世大木平蔵「貝桶・合貝」(昭和初期) こちらの貝桶にも紋が見えますね、ここには貝合わせ遊びで使う貝が入っています。 五世大木平蔵「貝桶・合貝」(昭和初期) 中に入っている貝はこちら!施された絵の細やかさを拡大鏡で確認できますか?通常、貝合わせ遊びではハマグリを使いますが、それでは大きすぎるので、ここではハマグリの稚貝を使うという徹底ぶり! 五世大木平蔵「木彫彩色御所人形」(昭和初期) 第3展示室では、卯年生まれの小彌太氏の還暦祝いに、孝子夫人が同じく「丸平大木人形店」に注文した、58体の可愛らしい御所人形が展示されています。 *御所人形とは、幼い子供の人形で、頭が大きく、コロンとしているのが特徴。 木彫の場合、人形に貝殻の粉に膠を混ぜた 胡粉を塗り重ね、乾かし磨いているので、その肌はまるで陶器のように艶やかで美しい! 五世大木平蔵「木彫彩色御所人形のうち楽隊」(昭和初期) ウサギの面を頭に乗せた人形達がなんとも愛くるしい! 五世大木平蔵「木彫彩色御所人形のうち輿行列」(昭和初期) そしてこちらの 輿行列の輿に乗っている弁財天は、孝子夫人がモデルだとか。 五世大木平蔵「木彫彩色御所人形のうち恵比寿」(昭和初期) 可愛い恵比寿さまの扇や衣装の一部には、

【アート通信ー94:「泉屋博古館東京」】

イメージ
 94回目のアート通信は、昨年リニューアルオープンした東京都六本木にある美術館「泉屋博古館東京」からです。 「泉屋博古館東京」入り口付近 「せんおくはくこかん」と読みます。こちらは住友家が集めた美術品を保管・調査・展示する目的で、京都本館の分館として住友家の別邸があったこの地に2002年に開館しました。なぜ、住友でなく泉屋かと言うと、『泉屋』は江戸時代の住友家の屋号だったから。 「うるしとともにーくらしのなかの漆芸美」展 展示風景 現在「うるしとともにーくらしのなかの漆芸美」展が2月25日まで開催中なので、この展覧会の内容と合わせてご案内します。 中央ホール 展示は中央ホールを中心に放射状に、第1展示室、第二展示室、第三展示室と分かれています。 第一展示室では〈宴のなかの漆芸美〉。第二展示室では 〈茶会のなかの漆芸美〉 〈香りの中の漆芸美〉〈檜舞台の上の漆芸美〉 〈書斎のなかの漆芸美〉と、テーマに沿って紹介されています。そして第三展示室では 〈漆芸の技法〉 が紹介されているのが嬉しいところです。 「唐草文梨子地蒔絵提重  (からくさもんなしじまきえさげじゅう)  」19世紀 例えばこちらはピクニックボックス。4段重とお盆、小引き出しには盃が収納されています。スズで出来た美しい徳利は大きく、飲むぞ!という勢いも感じますね。 *梨子地:斑点がある梨の皮の表面に様子を似せた技法。金銀粉の上に透明な漆を塗り、これを通して金銀粉が見えるようにする技法。 *蒔絵:漆で模様を描き、固まらないうちにそこに金や銀の粉を蒔いて絵にする技法。 扇面謡曲画蒔絵会席膳椀具から丸盆より「竹生島」20世紀 こちらは能が好きだった住友家の15代当主が、漆技法の一人者 八代 西村彦兵衛 (1886-1965 ) に注文した興味深いシリーズです。能楽の謡曲をテーマに、謡曲に出てくるモチーフが象徴的に15枚に描かれています。 例えばこちらは、・・・目の前に弁財天が現れ優美に舞い、龍神が宝珠を授けて豪壮に舞う・・・という場面。 扇面謡曲画蒔絵会席膳椀具から丸盆より「東北」部分  20世紀 こちらは梅の花が咲き誇る京都の東北院を訪れ、読経する旅僧の前に、この梅を手植えした和泉式部の霊が現れ・・・。 いずれの盆にも擦れた跡が見られ、実際に使われていた事が分かります。 「早花文葦手蒔絵盃  (そうかもんあしでま