【アート通信ー117:「マリーナ・タバサム・アーキテクツ(MTA)展」】

 117回目のアート通信は、現在、東京・六本木のTOTOギャラリー間で開催されている「マリーナ・タバサム・アーキテクツ(MTA)展」からです。

「マリーナ・タバサム・アーキテクツ(MTA)展」ポスター

マリーナ・タバサム(1968-)は、バングラデシュ出身の建築家で、自然災害や貧困などの問題にも向き合いながらバングラデシュを拠点に活動しています。

展示会場の様子

展示は、バングラデシュがどのような国なのかが分かる様に工夫されており、国土の大部分が川に囲まれたデルタ地帯で、繰り返す洪水で移動を余儀なくされる人達がいる事が分かります。国土の1/3が水没する事もあるとか!

写真での『クディ・バリ』の説明

こういった状況下、マリーナ・タバサムたちは現地の人たちと対話やワークショプを繰り返し、小さな可動式住宅『クディ・バリ』(現地語で、「小さな家」の意味)を提案しました。

会場のテラスで組み立てられた『クディ・バリ』

『クディ・バリ』は高床式で、バングラデシュにある伝統的な住居からヒントを得ており、スチールのジョイント以外は全て現地で調達し自分たちでの組み立てが可能です。

実際、これまで約500棟もが建てられましたというのですから凄い事です。

『クディ・バリ』上階に上る梯子

『クディ・バリ』上階の様子

通常は内部には入れませんが、ギャラリーツアーの日は可能なので、HPで確認の上、日時を合わせて行くのがお勧めです!

『サーペンタイン・ギャラリー・パビリオン』(2025) 模型

同じ仮設、という観点では、イギリス・ロンドンのケンジントン・ガーデンに2025年夏に建てられたパビリオンの模型も展示されています。

*ケンジントン・ガーデンでは、2000年より毎年夏に、選出された建築家が期間限定の休憩スペースを建てます。初回はザハ・ハディド氏、日本からもこれまで伊東豊雄氏、SANAA、藤本壮介氏、石上純也氏が担当。


『バイト・ウル・ロゥフ・モスク』(2012) 模型

一方、彼女達が手掛けているのは、仮設住宅だけではありません。ダッカを中心とした都市で恒久的な建物も手掛けています。

恒久的な建物は、仮設とは真逆のようですが、現地の土でレンガを作るなど、その土地の素材、優れた技術を尊重するところは同じです。

『バイト・ウル・ロゥフ・モスク』の写真での説明

また、彼女は 〈光は設計の中核にもなる大事なもの、そしてタダで手に入る〉と言い、光もとても大切にしています。

例えば、2012年にダッカ市内に建設されたモスク『バイト・ウル・ロゥフ・モスク』では、地元の土を焼成して作ったレンガを使用し、その隙間から差し込む光で美しい空間を演出しています。

講演会の様子

11月21日(金)に国立新美術館・講堂で開催された講演会では、マリーナ・タバサムの言葉で話を聞けました。

バングラデシュの土地のネガティブな性質も受け入れ、逆にそれを活用。地元の貧しい人達のコミュニティーを尊重しながら、少しでも豊かな自活への手助けを建物で出来ないか常に探り試みている、という話から、建築家というより社会学者であり人道支援家、という印象を受けました。


TOTOギャラリー・間 (ま) にて
2016年2月15日(日)まで開催中
無料
*TOTOギャラリー・間は、TOTO株式会社が社会貢献の一環として運営しているギャラリーです。


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