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【アート通信ー67:島ごと美術館!生口島」

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 瀬戸内海の小さな島、 広島県尾道市の「 生口島(いくちじま) 」に行ってきました。生口島は、 レモンの生産量日本一!の島です。また、 本島から四国まで6つの島々を 橋で 繋いでいく 「 しまなみ海道 」が通っている島でもあります。 眞板雅文「空へ」 実は生口島には、 1989年から開催されていた「 瀬戸田ビエンナーレ 」で設置されたアート が島のあちこちにあるんです。残念ながらビエンナーレは無くなってしまいましたが、その時の作品は「 島ごと美術館 」として残り、今では島とすっかり一体化しています。 生口島「島ごと美術館」のマップ 作品17点は海沿いに、そして一部は隣の「 高根島 」にあり、アップダウンの少ない小さい島なので レンタサイクル を利用すれば、1日で全て観て周る事が出来ますよ! 新宮晋「波の翼」 例えば島の西側の海沿いで出会える、 新宮晋 氏 (1937-) の作品 「 波の翼 」。海に浮かぶ様に設置され、 風によって微妙に動くのでまるで小さな船がどこかへ船出していくかのようです。 空気の流れを利用して動く氏の作品は、日本のみならず世界各国に設置されており、東京の意外なところでも出会えます。「 銀座エルメス 」。オープン時から建物外観に加えられている立体は、実は新宮氏の作品なんです。 新宮晋「宇宙に捧ぐ」2001  また、新宮氏の作品のすぐそばには 宮脇愛子 氏 (1929-2014) の 「 うつろひ 」 があります。 宮脇愛子「うつろひ」1993年 細いワイヤーのラインが景色に溶け込みすぎてちょっと見えにくいですが、夜間はライトアップされてもっとくっきりするようです。 宮脇 氏の 「うつろひ」 シリーズも彼女の代表的な作品なので、こちらも日本のみならず世界各国に設置。 群馬県立近代美術館と 宮脇 氏の 「うつろひ」 群馬県立近代美術館カフェ前の 宮脇 氏の 「うつろひ」 群馬県立近代美術館 では、彼女の夫である世界的建築家、 磯崎新氏 (1931-)の建物との相性も良く、カフェ前の水辺で優雅に揺れています。それに比べ生口島に設置された作品は、台の方が目立ちちょっと残念ですが、海沿いは風を強く受けるので頑丈にしたのでしょう。 また宮脇氏の作品の近くには、綺麗な夕日を堪能出来る サンセットビーチ があり、 山口牧生 氏 (1927-20...

【アート通信ー66:「Les couleurs en jeu ル・パルクの色 遊びと企て」】

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現在、 銀座メゾン エルメス ル フォーラム で 「Les couleurs en jeu ル・パルクの色 遊びと企て」 が開催されています。この展覧会 はアルゼンチンに生まれ、フランスを拠点に活動している ジュリオ・ル・パルク (1928-)の 日本初の個展 です。 2フロアーを使った大きな空間での展示 展示されているのは、初期の作品からつい最近の作品まで。展示場所は ウィンドウディスプレイ、エレベーター内、建物外壁にまでに及びます。 会場に入ってまず驚くのは、光により微妙に変化する色彩の美しさ。そして新しさ。例えば、 仲間と結成した視覚芸術探求グループ「GRAV」による 初期作品『パリの街中での1日(1966)』は、今観ても興味深く、これが60年代に行われたパフォーマンスだという事に驚きます。 角度を変えて見るとまた面白い作品の数々 彼自身が選んだ14色の色彩、グラデーション、幾何学的なデザイン、同じ形の反復、組み合わせ、そしてその展開は無限大で、目の錯覚も手伝い、鑑賞者は導かれるように作品に惹きつけられ、取り込まれていきます。 見る方向やタイミングによってデザインが変わる作品『反射ブレード(1966−2005)』 92才になる現在も彼の創作意欲は旺盛。会場ではビデオやVRを使った新たな試みも紹介されており、こちらも見逃せません。 建物外壁の作品『ロング・ウォーク(1974-2021)』 エレベーター内にも代表作「ロング・ウォーク」が断片的に現れる! 今回は、コロナ禍という事もあり、店舗内のエレベーターではなく、店舗裏のエレベーターで9階まで上がり、そこから展示がスタートします。8階へは階段を使うので、普段は目にする機会のない、この建物の階段室も見られますよ。 11月30日(火)まで。無料。 *建物外壁の作品展示は10月半ばまで、ショーウィンドウ内の展示は11月2日まで。 銀座メゾン エルメス ル フォーラム

【アート通信ー65:横尾忠則】

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第65回のアート通信は、1960年代から第一線で活躍し続けている世界的芸術家、 横尾忠則氏 (1936-)についてです。 東京都現代美術館のレクチャーでの横尾氏 グラフィックデザイナーからスタートした横尾氏は、1980年にニューヨークで開催されたピカソ展を観て即座に画業に専念する決意をします。これは彼の『画家宣言』として知られていますが、幼い頃からずっと絵を描き続けている氏は言います。 「いつ画家になったのか分からないし、まだ画家になれてないのかもしれない。」そして、「もう今は絵を描くのが苦痛で・・・、でも嫌いや描く絵がどんなものか見てやろう、と思って描いている。」と。 正直な人だなぁ〜と思います。 そんな彼の事を知るには彼の作品を観るのが一番!日本には氏の作品が常設されている美術館がなんと3つあります。 ・ 「豊島横尾館」 香川県豊島 古い民家を改修して、建築家永山裕子氏と共に作りあげられた空間に、横尾氏の世界観が展開。 ・ 「横尾忠則現代美術館」 兵庫県神戸市 氏からの寄贈・寄託によるコレクション。作品だけでなく膨大な資料も保管。 ・ 「西脇市岡之山美術館」 兵庫県西脇市(氏の生まれ故郷) 氏の陶板壁画がある。現在は地域のアーティストの紹介が主。 「 横尾忠則現代美術館」のポスター そしてこの夏秋、東京では横尾展が3箇所で開催されています! ・ 「GENKYO横尾忠則  原郷から幻境へ、そして現況は?」 東京都現代美術館 にて 10月17日(日)まで。 「GENKYO横尾忠則  原郷から幻境へ、そして現況は?」ポスター 60年以上にわたる氏のキャリアの全てを観せる600点以上の作品による、いわば集大成とも言える展覧会。氏自らが監修。コロナ禍で制作された新作も30点以上あり、現在進行形の彼をも知る事が出来る。 新作の展示室に足を踏み入れた瞬間、失礼ながら私は思いました。 「あら、横尾さん、あなた画家になりましたよ!ええ、本物の画家になられました。」と。初展示の新作は特に必見です! ・ 「 横尾忠則:The Artists」 六 本木の21_21 DESIGN SIGHT GALLERY3 にて、 10月17日(日)まで。 「 横尾忠則:The Artists」ポスター 30年の間 パリの カルティエ現代美術財団 の展覧会に関わってきた著名人の肖像...

【アート通信ー64:「パビリオン・トウキョウ2021」】

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 64回目のアート通信は、現在開催中のアートイベント『 パビリオン・トウキョウ2021』 のご案内です。 藤本壮介「Cloud pavilion」(雲のパビリオン)  高輪ゲートウェイ駅改札内 『パビリオン・トウキョウ2021』は、“東京オリンピック・パラリンピック2020”を文化面で盛り上げる為に、2018年に公募が始まった[Tokyo Tokyo FESTIVALスペシャル13]の1つです。 世界的建築家・美術家9人の作品が東京の街に出現。作品鑑賞は全て 無料 で、 9月5日(日)までの限定開催。 今しか観られない景色に出会えます! 藤森照信 茶室「五庵」  ビクタースタジオ前 新国立競技場近くに突如として現れた丘のような建物、こちらは 藤森照信 氏による茶室「五庵」です。 藤本氏は近代建築史、都市史研究の第一人者で、東京大学名誉教授、東京都江戸東京博物館の館長でもあります。また、ユニークな研究と建築作品で知られていますが、やはりこの茶室も街中で目を引きますね。 藤森照信 茶室「五庵」内部より 2階の茶室からは、新国立競技場が目の前に見えます!中に入るには「ワタリウム美術館」での当日予約が必要。 会田誠「東京城」明治神宮外苑 いちょう並木入り口 思い切った切り口で攻めてくる現代美術家 会田誠 氏は、並木道の入り口になんと江戸城ならぬ「東京城」を建てました。 並木の円錐形のシルエットと呼応する形、江戸城と縁のある石塁の上にそびえ建つその姿は、ダンボールという素材にも関わらず、妙にその場に馴染んでいます。左側の石塁の上には、ブルーシートで覆われた土台が潰れた城もあり、その対比からいろいろなメッセージも受け取れるでしょう。 藤原徹平「ストリートガーデンシアター」  旧こどもの城前 平田晃久「GLOBAL BOWL」 国際連合大学前 表参道・青山付近には建築家 藤原徹平 氏と 平田晃久 氏の作品が設置されています。どちらも中に入れる作品で、中からは普段とは違う景色が見えますよ! 妹島和世「水明」浜離宮恩寵庭園内 浜離宮恩寵庭園内には、建築界のノーベル賞と言われるプリツカー賞を受賞した世界的建築家、 妹島和世 氏による「水明」が設置されています。よく見ると微かに水が流れており、歴史ある庭園の中で新たに生まれた水の流れは新鮮! こちらの作品は浜離宮恩寵庭園内なので、...

【アート通信ー63:「山形市郷土館(旧済生館本館)」】

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 63回目のアート通信は、山形県の山形駅近くの「霞城公園」内にある、「山形市郷土館(旧済生館本館)」のご案内です。 「山形市郷土館(旧済生館本館)」 外観・ 正面 独特なデザインの不思議な建物です。 実はこの建物、ここではなく600メートル離れた七日町に、 公立病院 「山形県公立病院済生館」として 明治11年(1878年)に 建てらた建物なんです。なんと 医学校が併設されていた時期もあるんですよ。現在病院は「山形市立病院済生館」となり、新たな建物で診療が続けられています。 そして建物は、その貴重性から国の重要文化財に指定され、 1969 年 にこちらに移築復原されました。ちなみに「済生館」は、時の太政大臣、三条実美に名付けられた名前です。 「旧済生館本館」塔部分のアップ それにしても目を引くデザインです。天守閣のようでありながら洋風の塔。なぜこのような不思議な建物が、しかも公立の病院で建てられたでしょう?それには明治時代の近代化と、偉大な政治家が大きく関係しています。 当時の、今で言うところの山形県知事、三島通庸(みちつね)は、近代的な建物建設に熱心でした。 彼はこちらの建物以外にも、 「旧東村山郡役所」「旧西村山郡役所」 などでも、新しい時代の象徴となる擬洋風建築を推し進めました。 「旧済生館本館」玄関ポーチ付近 【アート通信ー50:擬洋風建築】 でも取り上げましたが、 日本古来 の技法を駆使し、 地元の大工達が西洋建築にチャレンジしたのが 「擬洋風建築」 です。 日本独自の様式で、 西洋技術の習得と共に消失していったので、明治時代だけに見られる様式です。 例えば、板張りの外壁にはペンキで彩色が施され、西洋風の柱や窓に対して雲形の装飾など和の要素が混ざっています。 擬洋風建築は純粋にデザインだけで見ると、可笑しなところもありますが、試行錯誤しながら取り組んだ手の跡から当時関わった人たちの熱量を感じ、私は愛せずにいられません。 中庭から診察室と塔を見上げる こちらの、 平屋と塔の珍しい組み合わせも見所の1つ。修道院を意識したのでしょうか、回廊が中庭を丸く囲み、そこから診察室に入れます。中庭が枯山水庭園なのも面白い! 2階からの階段から中庭を見る 色ガラスを組み合わせたガラス装飾も、まだステンドグラスが普及していなかった時代の苦肉の策ですが、かえって新鮮に感じ...

【アート通信ー62:「マーク・マンダースーマーク・マンダースの不在」展】

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 62回目のアート通信は、 6月1日(火)より東京都現代美術館にて再開 する「 マーク・マンダースーマーク・マンダースの不在 」展のご案内です。 22日まで会期を延長して再開 ややこしいタイトルですが、要は マーク・マンダース (1968-)という美術家の日本初の個展です。 《未焼成の土の頭部》(2011ー14) マーク・マンダースは、オランダ出身で現在はベルギーを拠点として活動しています。18歳から〈建物としての自画像〉というユニークな構想で作品を作り続けていますが、〈建物としての自画像〉とは、彼が名付けた架空の芸術家"マーク・マンダース"の自画像を"建物"という枠組みで表現していく、というプロジェクトです。 《マインド・スタディ》(2010−11)の向こうにビニールで仕切られた空間が広がる 会場には、アトリエを再現したような空間もあります。ビニールで仕切られた空間に入っていきますが、ルートは1つではないので気をつけて! 《4つの黄色い縦のコンポジション》(2017-2019) そして制作途中?と思うような作品にも遭遇します。素材にも注目ですよ! 《リビングルームの光景》(2008-2016) 観ていくと、そこに居たであろう"人"の気配を感じたり、マンダース本人と、架空の作家マンダースが混交したり、時間軸が分からなくなり、時が止まっているように感じたりします。 《3羽の死んだ鳥と墜落する辞書のある小さな部屋》(2020) メイン会場は3階ですが、2階にも作品があります。大きな部屋の作品は1点のみ。これだけ?と思うかもしれませんが、覗いたただけで通り過ぎないで。入って初めて分かる仕掛けがあります! 《2つの動かない頭部》(2015-2016) メインエントランス脇の屋外にも作品があるので見逃さないように! オンラインで質問に答える マーク・マンダース 今回のようなプロジェクトでは、作家自身が来日し構成を細かに決めていくべきなのですが、このコロナ禍で来日できず、リモートで設置場所などを指示したそうです。 最後に、やはりリモートで残していった彼の言葉を紹介します。 「本当に作りたいと願うものは、動かず完全に沈黙して、張り詰めたまま時を横断する、そうしたもの。」 作品鑑賞の参考になれば。 この1年半、新型コロナウ...

【アート通信ー61:ガウディの処女作「カサ・ビサンス」】

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  「処女作」、それには特別な魅力を感じます。鎧を纏っていない姿や、曝け出された魂に少し触れたようなドキドキ感。更にそこに、その後の作品展開のヒントが隠されている事も多々あり、興味はつきません。 「カサ・ビサンス」屋上 世界的建築家、 アントニ・ガウディ (1852-1926) の処女作「 カサ・ビサンス (1883-1885)」もそうです。「カサ・ビサンス」とはビサンスの家という意味。バルセロナに建つタイル製造業を営むマヌエル・ビセンス・ムンタネールの別荘で、31歳のガウディが建築家として初めて請け負った個人邸です。 通りから見た、「 カサ・ビサンス」 当時あった池や噴水などはありませんが、後に彼が言う「建物は自然の中で捉え、自然の法則に忠実であるべきだ。」という言葉に向かっていくかの如く、この建物には自然から得たモチーフが沢山埋め込まれています。 早速、見ていきましょう。 シュロの葉 をモチーフにした門扉 ガウディがデザインした外 壁の セラミック タイルの マリーゴールド 門から植物攻めです。因みに、シュロの葉からデザインをおこしたのは、彫刻家のロレンソ・マタマラ。ガウデイとは学生時代からの付き合いで、後に「サクラダファミリア」の彫刻も担当します。またそこから実際に鍛造したのは、鉄細工師のジョアン・オニョス。彼もまた、後に「グエル邸」などでガウディの要望を受け、複雑な鉄細工を作り上げていきます。 ヒマワリ が立体的に施されたテラスの外壁タイル タイルがふんだんに使われていますね。依頼人がタイル製造業者だった為それは比較的容易だったと思われますが、美しさを追い求めすぎたのか、かなり予算オーバーだったとか。 自然モチーフは内部空間にも広がっていきます。 自然と共にありたいというガウディの強い思いと共に、まるでどこまで出来るかチャレンジしているかのような迫力です。 漆喰の壁に 木蔦 が施された食堂 食堂からテラスに続く窓枠に描かれた、コウノトリや フラミンゴ 後に抽象的な表現で海や森といった大きな自然を表現していくガウディですが、この頃は自然のモチーフをそのまま取り入れていたんですね。食堂の家具は全て作り付けで、一部はガウディ自身がデザインしています。 塔のように張り出したテラスの上に置かれた天使の像で丸みも演出 ビサンス邸は、地下1階、地上3階建で、 当時...