【アート通信ー61:ガウディの処女作「カサ・ビサンス」】
「処女作」、それには特別な魅力を感じます。鎧を纏っていない姿や、曝け出された魂に少し触れたようなドキドキ感。更にそこに、その後の作品展開のヒントが隠されている事も多々あり、興味はつきません。
「カサ・ビサンス」屋上 |
世界的建築家、アントニ・ガウディ(1852-1926) の処女作「カサ・ビサンス(1883-1885)」もそうです。「カサ・ビサンス」とはビサンスの家という意味。バルセロナに建つタイル製造業を営むマヌエル・ビセンス・ムンタネールの別荘で、31歳のガウディが建築家として初めて請け負った個人邸です。
通りから見た、「カサ・ビサンス」 |
当時あった池や噴水などはありませんが、後に彼が言う「建物は自然の中で捉え、自然の法則に忠実であるべきだ。」という言葉に向かっていくかの如く、この建物には自然から得たモチーフが沢山埋め込まれています。
早速、見ていきましょう。
ガウディがデザインした外壁のセラミックタイルのマリーゴールド |
ヒマワリが立体的に施されたテラスの外壁タイル |
タイルがふんだんに使われていますね。依頼人がタイル製造業者だった為それは比較的容易だったと思われますが、美しさを追い求めすぎたのか、かなり予算オーバーだったとか。
自然モチーフは内部空間にも広がっていきます。自然と共にありたいというガウディの強い思いと共に、まるでどこまで出来るかチャレンジしているかのような迫力です。
自然モチーフは内部空間にも広がっていきます。自然と共にありたいというガウディの強い思いと共に、まるでどこまで出来るかチャレンジしているかのような迫力です。
後に抽象的な表現で海や森といった大きな自然を表現していくガウディですが、この頃は自然のモチーフをそのまま取り入れていたんですね。食堂の家具は全て作り付けで、一部はガウディ自身がデザインしています。
塔のように張り出したテラスの上に置かれた天使の像で丸みも演出 |
ビサンス邸は、地下1階、地上3階建で、当時流行していたイスラム教建築とキリスト教建築が融合したスペイン特有の「ムデハル様式」で建てられました。自然モチーフの取り込み以外にも、若き日のガウディはこの流行の様式を用いながら様々な試みをしています。
例えば、外観がのっぺりと平面的になるのを防ぐために、何箇所かのテラスを塔のように張り出させています。これが後に、複数の塔のようにそびえていく「サクラダファミリア」や、うねる外壁の「カサ・ミラ」へと繋がっていくのでしょう。
喫煙室 |
見所は他にも「喫煙室」や2階の「ドーム天井」などがあります。
喫煙室はエキゾチックな雰囲気ですが、ここのタイルにもマリーゴールドが!実はこのマリーゴールドは、ガウディが建設現場で見つけた花だそうで、建物を建てるために絶やしてしまった花を建物と共に蘇らせる彼の優しさも感じます。
トレス・マサーナの騙し絵 |
2階のドーム状の天井に描かれた騙し絵は、天井を突き抜け外の世界と繋がっていくかのよう。1階が男性の場、2階が女性の場という設定なので、2階は、この天井画のように1階に比べて全体的に柔らかなデザインで統一されています。
ところで、カサ・ビサンス邸は、1899年に別の人の手に渡り増改築されてしまいます。そして2005年に世界遺産に登録されると、売りに出されました。しかし高額だった為なかなか買い手が付かず、2014年ににようやく銀行「MoraBanc」が買い取り、極力元の形に戻す修復工事が施され、2017年に一般公開が始まりました。
バルセロナを訪れた際は有名な「サクラダファミリア(1883-)」「カサ・バトリョ(1904-1906)」「カサ・ミラ(1906-1912)」などだけでなく、若きガウディが試行錯誤したビサンス邸も是非訪れてみて下さい。
ガウディの意外な面を見られる建物としては他に、ガウディのパトロンだったエウセビ・グエル氏の「グエル邸(1886-1890)」、中世の遺跡と共に建つ「フィゲラス邸(1900-1909)」もお勧めです。