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【アート通信ー57:MOTアニュアル2020「透明な力たち」】

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 2020年最後のアート通信は、現在、東京都現代美術館で開催中の、MOTアニュアル2020「透明な力たち」のご案内です。 東京都現代美術館にて 2021 年 2 月 14 日 ( 日 ) まで開催中 MOTアニュアルは 、 若手作家の作品を中心に紹介していくグループ展 今回が16回目。毎回さまざまな切り口で、現代社会を透かして観せるようなアートを紹介しています。よってこの企画展を通して、現代進行中の社会現象を認識したり、近い未来に訪れるかもしれない社会を予測したりも出来ますよ! 今回のテーマは「透明な力」。 例えば、振動や電磁波、摩擦。防犯カメラの力もそうですし、情報化社会で求められるスピードも無意識レベルのの圧力と言えるでしょう。 展示空間そのものを装置と見立てている、片岡純也氏+岩竹理恵氏、の 展示風景 会場の床にプリントされたQRコードをスマートフォンで読み込むlことで、バーチャル貨幣を習得出来る Goh Uozumi氏の作品「ACOIN」 アートと科学の融合を試みる清水陽子氏の 展示は カラフルで 科学実験室のよう 参加している 5組のアーティスト の中で、私が一番明るく未来的なものを感じたのが、清水陽子氏(1977-) の展示です。 清水氏は生物学や化学の力を用いたアート表現に挑戦しています。化学、と聞くと難しく聞こえますが、彼女の表現は明確でとても分かりやすい。そして発想は大胆で宇宙規模! 清水氏の「Photosynthegraph」シリーズの作品 例えば 「Photosynthegraph」というシリーズは、 葉の表面にプリントが施され、 光合成と写真の原理を組み合わせて作られています。〈葉〉という生命体の上に浮き出た〈人物〉という生命体の画像、その組み合わせは新鮮ながら妙にしっくりきます。 清水氏の セルロースの被膜によるスピーカーホーン 、神秘的な美しさと柔らかな音 「Materials of Life」は、一見すると紙か木の様に見えますが、培養で作られたセルロースの被膜によって作られた造形 シリーズです 。化学処理を施しているとは言え、植物繊維が様々な形に姿を変え、利用もできる、という事に驚きます。しかも美しい! 折しも、このコロナ禍のにおいて、ウィルスそのものもが透明な力、見えない力の凶器ともなっており、今回のテーマは期せずしてタイムリーなもの

【アート通信ー56:「霧島アートの森」】

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第 56回目のアート通信は、鹿児島県のアート施設「霧島アートの森」からです。 Choi Jeong Hwa (1961) 「あなたこそアート」(2000) 「霧島アートの森」は、2000年にオープンした鹿児島県が運営する野外美術館です。霧島連山の標高700メートルの高原に位置し、60500坪もの広さを誇ります。 入園料320円という驚きの安さですが、展示作品のレベルはとても高く、雄大な自然の中をそんなにアートに詳しくなくても散歩感覚で楽しめます! 特に屋外彫刻は、作家たちがこの地を訪れ、この場所の為に制作したので、もうまるでここの住民の様に馴染んでいます。現在23体の彫刻が設置されており、そのうちの何点かをご紹介していきましょう。 Jonathan Borofsky(1942-) 「男と女」(1999) 例えば、ゲートを通り屋外に出ると真っ先に目に飛び込んでくるのがこの巨大な人型。男性なのか女性なのか?東西南北から鑑賞出来るのでぐるっと回りながらじっくり鑑賞するのがお薦め! Antony Gormley(1950-)「インサイダー」(1999) この森のどこにアートが?よく見ると真っ正面に案山子のような人の形が見えますね。実はこの森に全部で5体のポーズ違いの彫刻があります。 身長など作家自身から割り出しており、作家の分身とも言えます。木々に紛れて立ち続けるこの人達は、四季を通して何を見て、何を考えていくのでしょう。 Casagrande&Rintala 「森の観測所」(2004) 中にはこんな作品も。白い壁で区切られたスペースそれぞれにベンチが設けられています。区切られ、閉ざされたようなこの空間に腰掛け、自然の音に耳を澄まし、光を感じながら対話も出来ます。まさに森の観測所!建物(彫刻)の内側にも空間があるので立ち寄るのを忘れないで! Fuji Hiroshi(1960-)「犬と散歩」(2000) 道標の様に敷地内8カ所に設置されている犬の像。ポーズも様々で、中にはこんな粗相をしている子も!その他、ユニークなデザインの遊具も色々あるので家族連れでもかなり楽しめるでしょう。 トンネルの様な形の美術館 入場ゲートも兼ねているこちらの建物は、実は屋内展示場(美術館)。この建物のデザインのお陰で、一体がまるで北欧の様な雰囲気になっています。設計は早川邦彦氏(1941~

【アート通信ー55:BankART1929】

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第55回目のアート通信は、「 BankART1929 」のご紹介です。  ‘ BankART’を 直訳すると‘銀行アート’となりますが、こちらは2004年にスタートした横浜市のアートプロジェクトの名称です。 〈 歴史的建造物を生かしながらアートを発信し街の活性化を図る 〉のが目的で、名称の由来は1929年に建てられた元銀行の建物を使用した事から。1929年に建てられた銀行の建物からアートを発信していくよ、という意味でしょう。 「 BankART1929」は、 現在はNPO法人となり拠点も増え、常に興味深いアートを発信し続けていますが、今回はその中の1つ 「 BankART Station 」という拠点をご紹介しましょう。場所は、なんと 横浜みなとみらい線の「新高島駅」構内地下1階。 「BankART Station」の通路のような外部スペース、カッコいい!外部スペースは無料 これが面白い!通勤・通学の途中に、あるいは移動中に、買い物の合間にアート鑑賞が出来ちゃうんです。営業時間は11〜19時。本当は早朝から23時ぐらいまでオープンして欲しいところですがこのコロナ禍ですし、2019年2月に始まったばかりのスペースなので今後に期待しましょう。 「BankART Station」 は通路のような外部スペースと 1000平方メートルもある 内部スペースからなります。内部スペースにはカフェ(現在はお休み)やショップもあり、ショップではこだわりのアート本やグッズなどが販売されています。 「BankART Station」の内部スペースは有料。カフェもある(現在は休業中) 「BankART Station」内部空間。映像作品の鑑賞は好きな椅子に座って 10月11日(日)までは「都市への挿入」川俣正展が開催されていました。 ところで、「 BankART1929」には 「 BankART Station」の他にも、1926年築の帝蚕倉庫を復元した「 BankART KAIKO 」、1929年築の旧第一銀行横浜支店( 一部復元) 「 BankART Temporary 」、「 BankART Home 」といった拠点 があります。 2018年にオープンした「BankART Home」外観 「 Station」 「   KAIKO 」 「Temporary」は 企画展時のみのオープンです

【アート通信ー54:アーティゾン美術館「鴻池朋子 ちゅうがえり」】

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 第54回目のアート通信は、現在、東京駅近くの アーティゾン美術館 で開催中の 「 鴻池朋子 ちゅうがえり 」のご案内です。 「皮トンビ」(2019) 鴻池朋子氏(1960-)は、 人間を自然界の中で生きる狩猟採集を行う一匹の動物 、と捉えて作品を制作しており、その作品からは 原始 にも似た 野性 や、 神話 をも感じられます。またその表現方法も、立体、平面という枠を超え、屋外でのインスタレーションをはじめ、屋内でも五感に訴える様々な仕掛けを施してきます。 「皮トンビ」(2019)は、瀬戸内国際芸術祭2019に参加した際、屋外に展示された作品です。本来ならば屋外で鑑賞すべき作品ですが、ここでもその迫力は 充分 ! 「襖絵 インスタレーション」(2020) こちらの 「襖絵 インスタレーション」(2020)の 仕掛けが、展覧会のタイトル「ちゅうがえり」を一番良く表しているでしょう。会場の真ん中に設置された渦巻状のスロープを上ると少し高いところで会場全体を見渡せます。そこからこの滑り台で正面の襖に向かって一気に滑り降りるのですが、正に作品に飛び込むイメージで一気に鴻池氏の世界に入り込めます。鑑賞の順番に特に指定はありませんが、ストンと彼女の世界に入っていけるここをまずスタート地点するのがお薦めです! 「ドリームハンティンググランドカービング壁画」(2018) 「ドリームハンティンググランドカービング壁画」(2018) は、よく見ると何箇所かに本物の動物の毛皮が張り付いている作品。彼女の世界観をとてもよく表している作品です。 「毛皮(オオカミ、シカ、くま他)、毛皮コート。ぬいぐるみ、クッション、モケモケ、カヌー用ジャケット、手袋、等」 こちらのインスタレーションでは、 駆除された動物たちの毛皮 が吊り下げられています。なんとも生々しく、ちょっと足がすくむと同時に、自分も同じ動物の一員だと知る瞬間でもあります。 ただこういったリアルなものが苦手の人には厳しいかもしれません。大丈夫!ここを通らなくても会場を巡れるようになっています。 「影絵灯篭」(2020) 会場内では耳を澄ますと 作家の声による オオカミの声 、 風の音 など 生き物の音 が聞こえてきます 。中でも 「影絵灯篭」(2020)で は、森の中に迷い込み、散歩している気分を味わえますよ! 「物語るテーブルランナ

【アート通信ー53:「和巧絶佳」パナソニック汐留美術館」】

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  53回目のアート通信は、現在 パナソニック汐留美術館 で開催中の「 和巧絶佳 」展についてです。 和巧絶佳(わこうぜっか)は、 日本の伝統文化「和」、手わざ「巧」、美しさ「絶佳」を組み合わせた造語 この工芸展の大きな特徴は、出品作家を1970年以降に生まれた 若手 に絞っているところです。 1970年代以降で若手?伝統技術を習得をした上で自身の表現が出来るようになる年月を考えると、やはりこのぐらいの年月はかかるでしょう。 展覧会の感想を一言で言えば、 ‘若者、凄い!’ です 。 では、どんなところが凄いのかご案内していきましょう。 舘鼻則孝 「 Camellia heel-les Shoes 」( 2018 ) 美しいクリスタルを散りばめた靴。でもよく見るとヒールがありません。そう、ヒールレスシューズです。江戸時代のファッションリーダーとも言える花魁が履いていた高下駄を、現代に置き換え生み出したデザインだそう。 舘鼻氏 は、伝統の形や技を現代のものに消化させるセンスがずば抜けている様に思います。そんなところがレディー・ガガの目に留まったのでしょうか。彼女の専属デザイナーにもなりました。   深堀隆介 「四 つの 桶」(2009) 金魚すくい?いえいえ、こちらは桶以外は全て アクリル絵具と透明樹脂で出来ています。 金魚の 表情も それぞれ 違い 、まるで 泳いでるかの様。 深堀氏は人間が人工的に‘金魚’を作り上げた様に、自身がイメージした架空の魚を描いているのです。 池田晃将 「 Neoplasia-engineering 」( 2016 ) ピラミッドの様な三角形に数字が浮かぶこちらの作品は、池田晃将氏の螺鈿を用いた作品です。 螺鈿 とは、漆塗りなどの上に貝殻で作られた模様は埋め込んでいく技法で、通常は花や鳥などがモチーフになります。しかし池田氏は、デジダル数字を貝殻から切り出し埋め込んでいく、という気の遠くなる様な作業を繰り返します。デジダル時代の氏にとって、花や鳥よりこの方が自然なのだそうです。 新里明士 「光器」( 2020 ) まさに光を宿している様な器です。こちらは素焼きした磁器に小さな穴を開け、透明の釉薬をかける 蛍手 (ほたるで)という技法を使用しています。通常より沢山の小さな穴を連ねて、点描の様に浮かび上がらせた模様は繊細で、まるでレースの様です

【アート通信ー52:世田谷美術館「作品のない展示室」】

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第52回目のアート通信は、 世田谷美術館 にて開催中の 「作品のない展示室」 のご案内です。 「作品のない展示室」入り口付近   この企画展は、コロナ禍により海外からの作品の借用が難しくなった今、展示室そのものを観てもらおうというもので、無料です。展示室だけ観てもつまらない、と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、逆に滅多にない体験が出来ますよ! 床のデザイン 何度も訪れている人でも、天井はこういう形だったんだ、床にこんな模様があったんだ、と普段は気に止めなかったデザインの細部に目が向き、新しい発見があります。 絵のような窓からの景色 窓からの景色はまるで絵のよう! 公園の中の美術館だからこそ味わえる景色です。 座ってじっくり鑑賞するも良し、自分を絵の中に納めてみるも良し。 展示室 作品が無いと意外ですが、展示室は狭く感じます。今まで展示マジックにかかっていたんですね。 最後の部屋では過去に美術館で行われたパフォーマンスの記録映像が上映されています。無料なのでちょっと得した気分!2020年8月27日までの開催。 レストランに続く回廊 世田谷美術館は、38万㎡の広さを誇る都立公園、砧公園内に位置し、 内井昭蔵 氏(1933- 2002)の設計で1986 年にオープンしました。彼は美術館を設計するにあたり、〈 生活空間 としての美術館〉〈 オープンシステム としての美術館〉〈 公園美術館 としての美術館〉をコンセプトに、2階建の低層設計で、展示室に多くの窓を設けました。 教会内部のような廊下 入口の棟、企画展示室の棟、レストランの棟が回廊で繋がっています。内井昭蔵氏の祖父はロシア正教の司祭で、ニコライ堂などの聖堂建設に尽力した人です。教会で育った彼の建物デザインには、その影響かと思える箇所が、回廊以外にも何箇所かあります。そういったところを見つけて歩くのも楽しいですよ。 美しいカフェのテラス席 レストランやカフェへは、公園からも直接入る事も出来ます。展示鑑賞と関係なく利用出来る設計で、レストランはイベントや結婚披露宴に使われたり、広いオープンエアもあるカフェは子供連れでも気楽に利用出来るなど、世田谷美術館が日常生活の中で人々に親しまれるのにもひと役買っています。 世田谷美術館

【アート通信ー51:オラファー・エリアソン】

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第51回目のアート通信は、デンマーク出身で現在はベルリン在住のアーティスト、オラファー・エリアソン(1967-)の紹介です。 オラファー・エリアソン氏は、デンマークのコペンハーゲンで生まれ、アイスランドとデンマークを行ったりする環境で育ちました。特にアイスランドでの生活経験は、その後の彼の制作活動に多くな影響を及ぼしています。 では早速、作品を観ていきましょう! 「カラー・アクティヴィティ・ハウス」(2010) 「カラー・アクティヴィティ・ハウス」 (2010) 例えば、金沢21世紀美術館の敷地に設置されている「カラー・アクティヴィティ・ハウス」は、3原色で構成された渦巻き状の立体に入ったり出たりする事が出来る作品です。そしてその色の効果で、先程まで見ていた景色は一瞬で全く別の世界へ変貌していきます。 「Weather the Weather」(2016) 「Weather the Weather」(2016) デンマークのオードーロップゴー美術館の敷地に設置されている 「Weather the Weather」は、景色が切り取った様に見える リング型の作品なのですが、しばらくすると、 ふわ〜と水蒸気が出て来て一瞬で辺りの景色を変えてしまいます。そしてその後、何事も無かったように元の姿に戻るのです。 「あなたの移ろう氷河の形態学」(2019) 「東京都現代美術館」にて展示中 立体作品ばかりではありません。「あなたの移ろう氷河の形態学」というこちらの平面作品は普通の水彩画に見えますが、なんとグリーンランドの氷河の氷が溶けるのを利用しています。 これらの作品からも分かる様に、彼は自然現象や建築的空間を意識しながら、観る者の視覚認識を揺らがす作品を多く発表しています。 そして、 氷、光、色など、自然に対する彼の敏感で開かれた感覚は、アイスランドでの生活体験によるところが大きいようです。 「太陽の中心への探査」(2017) 「東京都現代美術館」にて展示中 また、持続可能な世界への挑戦を作品で示し続けているアーティストとしても知られています。持続可能、と言うと堅苦しいイメージがありますが、こんな美しい作品も!ガラスの多面体がゆっくり動き、それに伴い、床、壁、天井を覆い尽くす映像も動いていく幻想的な空間の作品ですが、こちらではソーラーエネルギーが使われているんです。 「東京都現