【アート通信ー54:アーティゾン美術館「鴻池朋子 ちゅうがえり」】
第54回目のアート通信は、現在、東京駅近くのアーティゾン美術館で開催中の「鴻池朋子 ちゅうがえり」のご案内です。
「皮トンビ」(2019) |
鴻池朋子氏(1960-)は、人間を自然界の中で生きる狩猟採集を行う一匹の動物、と捉えて作品を制作しており、その作品からは原始にも似た野性や、神話をも感じられます。またその表現方法も、立体、平面という枠を超え、屋外でのインスタレーションをはじめ、屋内でも五感に訴える様々な仕掛けを施してきます。
「皮トンビ」(2019)は、瀬戸内国際芸術祭2019に参加した際、屋外に展示された作品です。本来ならば屋外で鑑賞すべき作品ですが、ここでもその迫力は充分!
「襖絵 インスタレーション」(2020) |
こちらの「襖絵 インスタレーション」(2020)の仕掛けが、展覧会のタイトル「ちゅうがえり」を一番良く表しているでしょう。会場の真ん中に設置された渦巻状のスロープを上ると少し高いところで会場全体を見渡せます。そこからこの滑り台で正面の襖に向かって一気に滑り降りるのですが、正に作品に飛び込むイメージで一気に鴻池氏の世界に入り込めます。鑑賞の順番に特に指定はありませんが、ストンと彼女の世界に入っていけるここをまずスタート地点するのがお薦めです!
「ドリームハンティンググランドカービング壁画」(2018) |
「ドリームハンティンググランドカービング壁画」(2018)は、よく見ると何箇所かに本物の動物の毛皮が張り付いている作品。彼女の世界観をとてもよく表している作品です。
「毛皮(オオカミ、シカ、くま他)、毛皮コート。ぬいぐるみ、クッション、モケモケ、カヌー用ジャケット、手袋、等」 |
こちらのインスタレーションでは、駆除された動物たちの毛皮が吊り下げられています。なんとも生々しく、ちょっと足がすくむと同時に、自分も同じ動物の一員だと知る瞬間でもあります。
ただこういったリアルなものが苦手の人には厳しいかもしれません。大丈夫!ここを通らなくても会場を巡れるようになっています。
「影絵灯篭」(2020) |
会場内では耳を澄ますと作家の声によるオオカミの声、風の音など生き物の音が聞こえてきます。中でも「影絵灯篭」(2020)では、森の中に迷い込み、散歩している気分を味わえますよ!
「物語るテーブルランナー」(2014-2019) |
壁面に張り巡らされた、一見とても穏やかな展示。こちらは国内外の自然の中で出会った人々に経験を語ってもらい、そこから鴻池氏が下絵を作り、本人の手で作品を仕上げてもらうプロジェクトの展示です。〈手芸〉という手法を使うだけで、現実がそこから離れ、あたかも物語の世界の様になっていくのが不思議。
出品作品は全42点。その内3点は作家の作品ではなく美術館のコレクション作品です。見つけられるかな?実はこれは、企画の一部で、コレクションと作家との接点を探る試み。今後も年に1回開催予定だそう。
「アーティゾン美術館」外観 |
ところで、「アーティゾン美術館」。聞き慣れない名称かもしれませんが、ビルの建て替えに伴い休館していた「ブリヂストン美術館」が新たな名称と共に2020年1月にオープンした美術館です。「ARTIZON」(アーティゾン)は、〈ART〉(アート)と〈HORIZON〉(地平)を組み合わせた造語だそうです。
1階ロビー付近 |
展示室は4-6 階の3フロアで、旧美術館の約2 倍の面積。3階が入り口で2階がミュージアムショップ、1階がミュージアムカフェ。
入館はオンライン予約で。1時間30分ごとに区切られた時間内に入れば良いのでストレスフリー。人数制限された、ゆったりした空間で作品を鑑賞出来ます。
美術館入り口付近 |
4階は美術館のコレクション作品の展示スペース |
お洒落なミュージアムカフェ |