【アート通信ー70:「ロニ・ホーン」展】
70回目のアート通信は現在、神奈川県の箱根にある「ポーラ美術館」で開催されている「ロニ・ホーン:水の中にあなたを見るとき、あなたの中に水を感じる?」からです。
会場入り口風景 |
ロニ・ホーンは、1955年生まれの現代美術家で、1975年から今日まで、手付かずの自然が多く残るアイスランドを隈無く旅し、そこから得た感覚、自然への畏怖の念などを作品化する作家として知られています。
日本の美術館での個展は初めてですが、「ポーラ美術館」は国立公園に埋もれるように静かに存在する美術館なので、大きな自然そのものをテーマにする彼女の作品を鑑賞するには最適な場と言えそうです。
「無題(『必要な情報は全て天気予報から入れる』)」(2018-2020)展示風景 |
「無題(『必要な情報は全て天気予報から入れる』)」(2018-2020)から |
初めの展示室で目に飛び込んでくるのはこちらの風景。表面に水を湛えたプラスチックプールかと思いきや、全てガラスで出来ています。彼女が開発した新技術で作られているのです。
屋外の木々や空が写り込み、表面に満々と水をたたえているように見えますが、ガラスです。
『水』は彼女が最も大切にしているテーマで、彼女は、
“私が水に寄り添ったのではなく、水が私に歩み寄ってきた” “水は純粋であり、暴力的であり、官能的でもあり、常に何かしらに接し繋がっている。そしてその動きそのものである”
と言っています。
「静かな水(テムズ川、例として)」(1999年)展示風景 |
そんな水をテーマしたもう一つの作品がこちら。「静かな水(テムズ川、例として)」(1999年)。テムズ川の表面を定点観測のように撮影した15点からなる写真シリーズ。
隣接の部屋では映像作品「水と言う」(2021)から、水には私達の予想をはるかに超えた物語がある事を知らされます。
この後、会場は地下2階へ移動。
地下2階では、水をテーマにしたコレクション展「水の風景」が同時開催されています(同一チケット)。
「水の風景」展、入り口付近 |
「水の風景」展示風景 |
「水の風景」展には、クロード・モネ(1840-1926) やエミール・ガレ(1846-1904) といった著名な作家の作品が多く含まれており、『水』という切り口で、ロニ・ホーン氏の作品を観た後に鑑賞すると、今までとは違った観え方がしてくるのが興味深いところです。
一方、ロニ・ホーンの地下2階会場での見どころは、アイスランドの温泉で6週間にもわたり女性の表情を記録し続けた「あなたの天気パート2」(2010-2011)でしょう。
「あなたは天気パート2」(2010-2011)展示風景 |
「あなたは天気パート2」(2010-2011)より |
100枚ものポートレート写真に囲まれます。一見変わらない女性の表情はよく見ると微妙に違っており、その違いは一見同じなのに少しずつ変化していく雲のようでもあります。
「鳥葬」(2017-2018)展示風景 |
「鳥葬」(2017-2018)より |
森の中に設置された作品は、まるで氷の塊のようにそこに佇んでいます。
彼女は基本、持続可能な作品以外は屋外に設置すべきではない、と考えていますが、ガラスは自然鉱物を溶解し、冷却し作られるものなので、彼女の理念に適った素材だったのでしょう。
こちらの屋外作品はこのままここで常設となりますが、彼女は「自然の中で朽ち果てていく姿も楽しみだ。」と言っています。彼女らしい発言です。
会場を廻って感じるのは、氷の下の空間を巡っているような圧倒的な静かさと圧力。これには作品設置を全て作家自らが来日し行なった事も影響しているのかもしれません。
展覧会では、その他ドローイング、インスタレーションなど、1980年代から今日までの約40年間の彼女の歩みを確認出来ます。
2022年3月30日(水)まで。