【アート通信ー41:塩田千春】

41回目のアート通信は、第56回ベネチア・ビエンナーレ国際美術展日本館代表(2015)で、現在六本木の「森美術館」にて個展「塩田千春展 魂がふるえる」を開催中の現代美術家塩田千春氏(1972-)の紹介です。

塩田千春 〈不確かな旅〉

彼女の作品には、パフォーマンスやインスタレーションといった瞬間もしくは一定期間で消滅してしまうものが多く、日本では紹介される機会の少ない作家です。また比較的大きな作品が多く、その作品のほとんどは自身の体験から紡ぎ出されています。

今回の個展では、学生時代から現在までの代表作が紹介され、彼女の人生における葛藤を作品を通して感じ取れる構成になっています。作品自体は実際に美術館で観ていただくとして、ここでは作品5点を選び、その作品にまつわる逸話をご紹介していきましょう。

編みこまれた感覚は幼少期より

塩田千春 〈静けさの中で〉

彼女の代表作に、大量の糸が編みこまれ張り巡らされた作品がありますが、実は彼女は子供の頃より不安な事があると朝4時か5時に目が覚め、自分の部屋全体が糸で編みこまれているような感覚に囚われていたそうです。その不安感を糸で表現出来たら、との思いから生まれた作品です。

絵画科なのに絵は描かない?

塩田千春 パフォーマンス〈絵になること〉 1994年留学先のオーストラリアでエナメル塗料を頭からかぶり自身が絵に溶け込んでしまったかのようなパフォーマンスを行った。その時の写真

大学に入り絵画科に入学したものの立体を2次元に押し込める事に疑問を持ち、そこから絵を描けなくなります。しかし何かを生み出さなければ!ともがき、生み出していった作品が、パフォーマンス、インスタレーションでした。

人違いからの作品

彼女は学生の頃、1991年に滋賀県立美術館で開催された「アバカノヴィッチ」展を観て感銘を受け、マグダレーナ・アバカノヴィッチ(1930-)に学びたい!とドイツ留学の手続きを取ります。ところが手違いで、彼女が師事することになったのは 名前の似たマリーナ・アブラモヴィッチ氏(1946-)でした。過激なパフォーマンスで有名なアーティストです。しかし、そこで受けた断食など修行僧のような授業は、その後の彼女の作品に大きな影響を与えます。

第2の皮膚、第3の皮膚

彼女は第1の皮膚は自身の皮膚第2の皮膚は自身が纏った洋服、そして第3の皮膚は壁や窓そして扉といった建築、と考えています。

塩田千春 〈皮膚からの記憶〉 第1回横浜トリエンナーレ出品の作品写真

〈皮膚からの記憶〉という作品は、泥を被ったドレスにシャワーで水をあてる作品で、第2の皮膚とも言える服にこびりついた泥(記憶)は洗い落とせるのか?という事がテーマになっています。

塩田千春 〈内と外〉

〈内と外〉という作品は、第3の皮膚によって隔てられた内側と外側を表現しています。ここで使われる窓は、2004年頃より活動の拠点とする旧東ベルリンの工事現場で、「余った窓はありませんか?」とコツコツ尋ね歩き集めたものです。1989年のベルリンの壁崩壊後、ベルリンでは再開発のため沢山の建物が取り壊されていたのです。‘旧東ベルリンの人達はかつて西ベルリンをこれらの窓を通してどのように見ていたのだろう?’と考えながら、一時は600個もの窓を自宅にストックしていたそうです。

今回の個展では、新作18点を含む113点が展示されており、巨大な作品から作品資料まで、また彼女が関わった舞台美術の紹介もあります。

森美術館・展望台へのエレベーター

六本木の森タワー53階のある森美術館の入場チケットには52階のアーツセンターギャラリーや屋内展望台への入場料も含まれているので、時間をたっぷりとって訪れるのがお薦めです。また、森タワー周辺のパブリックアート(六本木ヒルズ)を見つけながら散歩するとかなり充実したアート日和になるでしょう。

「塩田千春展 魂がふるえる」は森美術館にて、2019年10月27日(日)まで毎日開催されています。


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