【アート通信ー12:世界で最も美しい書店に選ばれた「レロ・エ・イルマオン」の魅力】


連日多くの人が訪れるポルトガルのポルトにある、世界で最も美しい書店に選ばれた「レロ・エ・イルマオン(Libraria Lello&Irmão)」、そこには文学にとどまらず、美術・音楽といった文化への深い理解とそれを大事に育てていこうとする人達の歴史が刻まれています。

まずは建物の外観に注目してみましょう。
正面2階の窓の両脇には芸術と科学に対する敬意が表現されています。
向かって左には芸術を表す像が、右側には科学を表す像がJosé Bielmanによって描かれています。


 Lello家の兄弟は1881年より書店を営んでいました。
彼らは本を売るだけではなく、出版やアーテイストとのコラボレーション、リミテッドエディション、初版本の出版など精力的に仕事をしていました。

現在の建物は、建築デザイナーでありエンジニアでもあるFrancisco Xavier Esteves(1864-1944)によって1906年に建てられました。彼は科学や文学にも造詣が深く、兄弟の想いと彼の考え方は建物の随所に見受けられます。

入り口を入ってずらっと並ぶ本棚に目を向けてみましょう。
作家達の胸像が等間隔で刻まれ、それは物を書く者への敬意を表現しているようです。 

作家の像以外にも木に模様を刻むなど、技は細かい

そしてあまりにも有名な中央に構える階段。
その吹き抜けの2階からは、ステンドグラスを通した明るい光が差し込んできます。

階段は裏も美しく、1階の天井と一体化している




ポルトで英語の先生をしていた「 ハリー ポッターと賢者の石」の作者、JK ローリングはこの本屋の顧客でした。彼女はこの階段からインスピレーションを得て、作中の店を描いたと言われています。

木の手すりと、蝶の羽根の様に広がる形状はドラマチックで魅力的ですが、階段の裏にも手を抜くことなく施された見事な細工は必見です!



2階天井の8×3.5mのステンドグラスからは、モノグラムと共に書店のモットーである「Déçus in Labore (仕事における尊厳)」の文字を読み取る事が出来ます。ここからも兄弟達の強い意志が感じられますね。


2階奥のガラス窓からも明るい光が差し込んできます。
窓周りの細かい装飾や柱と天井に続く文様は、木の様ですがこれは石膏に着色をしたもので、ここでは本棚に刻まれた枝の模様と呼応して、生い茂る植物(生命)を大胆に表現しています。

また、電燈のデザインなど細部へのこだわりと美しさにも溜め息が出ます。

入口正面のに見える場所に創業者である兄弟José Lello António Lelloの胸像が置かれている


床に残る本を運んだものと思われるレールの跡や、ワックスが塗られた手入れの行き届いた床など、どこに目をやってもそれは歴史と築き上げてきた人々の想いに繋がります。
想いのこもった建物を建てる事、そしてそれを守り引き継ぐ事は容易ではありません。その難しい事を、この書店は時代に合った手法で実現している(「レロ・エ・イルマオン」がなぜ入場料を取るようになったか)と訪れてみて実感しました。

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