【アート通信ー112:「La Piscine(ラ・ピシーヌ)」】
112回目のアート通信は、フランス北部の都市リールの郊外、 Roubaix (ルーベ)市 にある美術館「La PiscineーMusée d’art et d’industrie André Diligent ー(ラ・ピシーヌ ーアンドレ・ディリジャン美術産業博物館)ー」からです。
「La Piscine」1階、プール周りの展示スペース |
〈 La Piscine 〉 はフランス語でプール、という意味ですが、その名の通り、実はこの美術館の建物は公共のプール施設を改修して利用しています。
今回は、この美しい建物の歴史と、美術館として利用されるようになった経緯を中心にご紹介します。
結核も蔓延し、当時のルーベ市はフランスで最も死亡率の高い市だったそうです。
そんな状況に立ち向かったのがルーベ市長、Jean-Baptiste Lebas (ジャン=バティスト・ルバ 1878-1944) 氏。無料診療所を設け、医療検診やワクチンを導入しました。
*111回目のアート通信でご案内したカヴロワ氏はこの環境を避けて、ルーベではなく、美しい自然の残る町クロワに住居を構えたのです。
プールとして利用されていた頃の写真(「La Piscine」カタログより) |
そんな状況に立ち向かったのがルーベ市長、Jean-Baptiste Lebas (ジャン=バティスト・ルバ 1878-1944) 氏。無料診療所を設け、医療検診やワクチンを導入しました。
そしてもう一つ、彼が行ったのは 〈 屋内温水プール 〉 の建設でした。当時のヨーロッパでは、“水泳は体を丈夫にする” として、ちょっとしたブームでもあったのです。
どうせ作るのなら、『フランスで一番美しいプールを!』『衛生の神殿を!』と、アール・デコ様式のこの美しい建物が5年かけて、1932年に完成しました。
そして食堂や、こちらは余裕のある人の為でしょうか、なんとネイルサロンや美容院までありました(!)
プール周りの展示スペースを2階より見る |
そんな市民の憩いの場であったプールも、1985年には老朽化などの理由で閉鎖されてしまいます。
しかしその7年後、ここを美術館に改修する!という案が採用され、2001年に美術館「La Piscine」としてオープンし、今日に至ります。
建物改修を担当したのは、パリの「オルセー駅」を「オルセー美術館」に改修した建築家、Jean-Paul Philippon (ジャン=ポール・フィリッポン 1945-) 氏。
プールの一部を残す斬新なデザイで、水面にステンドグラスや彫刻作品が映り込みとても綺麗です。
アレクサンドル・サンディエ「セーブル焼きの門」(1913) |
プール脇に設置された手の込んだセーブル焼きの門にも注目です!
ちなみに、美術館の正式名称「La PiscineーMusée d’art et d’industrie André Diligent ー(ラ・ピシーヌ ーアンドレ・ディリジャン美術産業博物館)ー」のAndré Diligent アンドレ・ディリジャンは、美術館改修が決まった当時のルーベ市長の名前で、彼の功績を讃えて付けられました。
ピカソの作品を集めたコーナー |
展示はプールを囲むように、テーマ別で行われています。
この街の成長を見守り、この建物を建てるきっかけとなった織物産業、その見事な生地見本も2階に展示されているのでお見逃しなく!
展示はこのプール棟だけではありません。
また、かつて入浴施設があった棟にも展示があります。様々な美術館のコレクションからの移管・寄贈を受けており、分野は多岐に渡ります。日本人画家、藤田の作品もありますよ!
当時のプールの浄水設備が見られるミュージアムショップ |
当時の煉瓦が使われている美術館入り口付近 |
「La Piscine」は、プール施設を美術館に改修したという珍しさもあり、今では世界中の人々が訪れる人気の美術館です。小さな郊外の市にありながら、これだけ人を集められるのは、歴史を物語る部分を上手に残した、そのデザイン手腕によるところが大きいのでしょう。
*プール棟の水面は普通の床面に変える事も出来ます。そしてその美しい空間は、美術展だけでなく、コンサートやファッションショーなどにも活用されています。