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【アート通信ー113:特別展「江戸⭐︎大奥」】

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 113回目のアート通信は、現在、 東京国立博物館 平成館 にて開催中の 特別展「江戸⭐︎大奥」 からです。 会場入り口のポスター 大奥とは、江戸時代 (1603-1867) 、将軍の妻、側室、子供、そして彼女達に仕える女性達が暮らした城内の場所の事で、その成り立ちは1618年ぐらいからと言われています。そしてその面積は江戸城の約半分を占めていたと言うのですから相当な広さです。 〈NHKドラマ10「大奥」のセット〉 “御鈴廊下”の一部を再現展示 そしてここを出入り出来るのは将軍のみ。大奥に暮らす女性たちは一度入ると、日常的な出入りは許されません。 また大奥での出来事は決して口外してはならない、という厳しい掟がありましたので、大奥は常に秘密のベールに包まれていました。 錦絵シリーズ、揚州周延筆 「千代田の大奥」 (明治時代) の展示場所では、壁面に絵巻の一部が大写しで再現されており、華やか! それでは、展覧会の見どころをご案内していきましょう。 *写真は全て許可を得て撮影しております。 第1章「あこがれの大奥」 ここでは、その秘密のベールに包まれ、人々の想像を掻き立てた大奥の概要を紹介しています。〈NHKドラマ10「大奥」のセット〉や見事な錦絵〈 「千代田大奥」 の展示〉など、様々な角度からのアプローチ。 万亭応賀作、歌川国貞筆筆、「奥奉公出世双六」(江戸時代 19世紀) 東京都江戸東京博物館蔵 *展示期間:7/19-8/17 こちらは大奥の様々な仕事を辿って出世していく双六です。その名も 「奥奉公出世双六」 。文字 を書いたり文書の管理をする 〈御佑筆〉、子の世話をする者〈御守〉〈御乳〉などを通り、大奥で働く女性の最高位 、〈老女〉 などから上がりに近づけます。 一般の人達は想像の中で大奥勤めをし、出世を夢見、大奥での出来事に想像を膨らませたりしたのでしょうか。 第2章「大奥の誕生と構造」 「江戸城本丸大奥総地図」(江戸時代19世紀)東京国立博物館蔵 第1章で大奥の概要が分かったところで、今度は資料・作品から大奥の事実に迫ります。 江戸城は大きく分けて「表」「中奥」「大奥」の3つに分かれていました。「表」は政治を行うところ、「中奥」は将軍のプライベート空間、そして「大奥」です。 上の写真は、その大奥を図面で示したもの。黄色のスペースが正室達が暮らした場所で、...

【アート通信ー112:「La Piscine(ラ・ピシーヌ)」】

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 112回目のアート通信は、 フランス 北部の都市 リール の郊外、  Roubaix (ルーベ)市  にある美術館「 La Piscine ー Musée d’art et d’industrie André Diligent   ー( ラ・ピシーヌ ー アンドレ・ディリジャン美術産業博物館)ー 」からです。 「La Piscine」1階、プール周りの展示スペース 〈 La Piscine 〉  はフランス語でプール、という意味ですが、その名の通り、実はこの美術館の建物は公共のプール施設を改修して利用しています。 今回は、この美しい建物の歴史と、美術館として利用されるようになった経緯を中心にご紹介します。 19世紀のルーベの羊毛工場の様子を描いた絵 19世紀末、ルーベ市では繊維業がとても盛んでしたが、それによる家・工場の密集過多により風通しが悪くなり、衛生状態も悪化していました。 結核も蔓延し、当時のルーベ市はフランスで最も死亡率の高い市だったそうです。 *111回目のアート通信でご案内したカヴロワ氏はこの環境を避けて、ルーベではなく、美しい自然の残る町クロワに住居を構えたのです。 プールとして利用されていた頃の写真( 「La Piscine」カタログより) そんな状況に立ち向かったのが ルーベ市長、 Jean-Baptiste Lebas ( ジャン=バティスト・ルバ 1878-1944) 氏 。無料診療所を設け、医療検診やワクチンを導入しました。 そしてもう一つ、彼が行ったのは 〈 屋内温水プール 〉 の建設でした。当時のヨーロッパでは、“水泳は体を丈夫にする” として、ちょっとしたブームでもあったのです。 シャワールームも当時のまま残っている 建築デザインは、すでにプール建設の経験がある、 Albert Baert ( アルベール・バール 1863-1951) 氏 。 どうせ作るのなら、『 フランスで一番美しいプール を!』 『 衛生の神殿 を!』 と、 アール・デコ様式 のこの美しい建物が 5年かけて、 1932年に完成 しました。 今も残されている、自宅で入浴できない人の為のお風呂(男性用) このプール施設は労働者階級の貧しい家族から富裕層まで利用出来、 自宅にお風呂がない人の為のお 風呂 も用意...

【アート通信ー111:「カヴロワ邸」】

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 111回目のアート通信は、フランス北部の都市リール郊外 Croix (クロワ)市にある邸宅、「Villa Cavrois カヴロワ邸」(1932年落成)からです。 庭の池にその姿を映す様に設計された 「カヴロワ邸」 カヴロワ邸は、「コルビジェ巡礼ー6」の最後で触れたフランスの建築家、 ロベール・マレ=ステヴァンス ( 1886-1945)  の作品で、 紡績・織物関係の会社を経営するポール・カヴロワの家族の為に設計されました。 現在は歴史的建造物として国の管理下、有料で公開されています。 斜めから見る 「カヴロワ邸」、 出航して行く船の形を意識したと言われている ロベール・マレ=ステヴァンスは、同時代の ル・コルビュジエ (1887-1965) やフランク・ロイド・ライト ( 1867-1959)  と並び活躍し、彼らから影響も受けた建築家です。 カヴロワ氏は、 ステヴァンス氏を信頼し、デザイン、コンセプトなど全てを彼に一任したので、ステヴァンスは内装から家具のデザインまで全てに、時には実験的な手法を使いながらその才能を発揮出来ました。 建物入り口からサロンへの入り口を見る また、ステヴァンスは映画好きで、映画作品で美術装置を担当した事もあります。 サロン入り口に見える黒いドアは、映画館の扉を意識しており、扉を開けた瞬間に目に飛び込んでくる景色を印象付ける効果も狙っているとか。 サロンの様子と入り口扉の内側を見る このサロンは2階までの吹き抜けで邸宅の中心となっています。 ここを中心に、西側にダイニングやキッチンがあり、東側に事務所など、2階では、西側に子供達の部屋、東側に夫婦の部屋が並びます。3階には、舞台もある広い部屋があり、子供達の遊び場として使われていました。機械室、カーヴなどは地下にまとまっています。 キッチンの壁に設置されている時計 驚くのは、今見ても古く感じない洗礼されたデザインと、エレベーターの導入など、最新のテクノロジーの数々です。 壁時計は、各部屋に合わせてデザインされており、当時は珍しかった壁に埋め込まれた電気で動く仕組みになっています。 キッチンの床タイル 現代でも、現代こそあったら嬉しい、角がカーブして掃除しやすいタイル! キッチンの蛇口 蛇口は水、湯、浄水、と用途別に3つある! 洗面所にある体重計 洗面所に体...

【アート通信ー110:特別展「蔦屋重三郎」】

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 110回目のアート通信は、現在、 東京 国立博物館 平成館 にて開催中の 特別展「蔦屋重三郎 コンテンツビジネスの風雲児」 からです。 *写真は全て内覧会にて許可を得て撮影しております。 平成館内の「蔦屋重三郎」展ポスター 蔦屋重三郎(1750~1797) は、浮世絵師・喜多川 歌麿 や東洲斎 写楽 を見い出し、世に売り出した人です。彼は 吉原 生まれで吉原に熟知していたので、まずは吉原に関する出版に携わりました。当時ですから、出版は浮世絵とも大いに関係があり、結果として絵師を世に送り出す事に繋がったのです。 〈附章〉 展示風景 主催が東京国立博物館とNHKというだけあり、特に最後の 〈附章〉 では、現在放映中のNHK大河ドラマ「べらぼう」(主人公は蔦屋重三郎)のセットや、当時の様子を再現した町並みなどがあり、気分ははすっかり江戸時代! また、ここでは浮世絵の作り方の説明が映像でなされているのも嬉しいところ。 「蔦屋重三郎」展 入り口風景 では、早速見どころをご案内していきましょう! この門は、吉原の入り口にあたる 大門 で、NHK大河ドラマ「べらぼう」の美術チームの力作です。この大門をくぐり、吉原の世界へ入っていきます。 紅塵陌人 作 / 北尾重政 画『一目千本』(1774) 大阪大学附属図書館 忍頂寺文庫 蔵 こちらは蔦屋重三郎が初めて手がけた出版物、 『 一目千本』 です。流行の生け花に遊女をなぞらえて紹介する遊女評判記です。生け花に例えて、より想像力を掻き立てようという思惑でしょうか。 *会期中ページ替えがあります。 北尾重政・勝川春章 画『青楼美人合姿鏡』(1776) 東京国立博物館 蔵 こちらは、山崎金兵衛と蔦屋重三郎の共同で出版された、人気絵師2名により美しく描かれた、なんと164名の遊女とその名前が記された 『 青楼美人合姿鏡』 です。また、別ページには、その遊女たちが詠んだ句が載せられています。 私にはどの遊女も同じ顔に見えてしまうのですが、遊女の日常が垣間見られてとても美しいです。 *会期中ページ替えがあります。 〈第1章〉 展示風景 〈 第1章〉 は吉原の通りを再現した、こんな雰囲気のところで展示されています。 〈第2章〉 以降では、蔦屋重三郎の仕事を知るだけでなく、実は喜多川 歌麿 (1753?-1806)や東洲斎 写楽 (生没...