【アート通信ー101:「養老天命反転地」】

 101回目のアート通信は、岐阜県養老郡養老町の養老公園にある「養老天命反転地」からです。「養老天命反転地(ようろうてんめいはんてんち)」は国際的芸術家である荒川修作氏とマドリン・ギンズ氏による建築プロジェクト作品。1.8haに及ぶ敷地全てが丸ごと作品です。

園内の様子と『養老天命反転地記念館』(外観・部分)

養老は地名で、天命反転地というのは、読んで字の如く、天命を反転させる場所。ここでの体験により自身の感覚をひっくり返し、感性を解き放つことで、『死』へ向かう人間の宿命を反転させられるのでは?そういう場所になるのでは?という意味です。〈死なないため〉にどうする?これは彼らが生涯探究し続けたテーマなのです。

『養老天命反転地記念館』(内部・部分)

まずはデッサンなどが展示してある記念館からスタート。ここに入るとまずその鮮やかな色彩に目を奪われますが、足元にも注意!平ではありませんよ!そして迷路にもなっています。

また天井と床をよく見ると上下が対に!まさに反転。写真を撮ってひっくり返すと、宙にぶら下がっているような写真に!

『極限で似るものの家』(外観・部分)

特に順番は決まっていませんが、てっぺんに井戸がある『昆虫山脈』をよじ登り、正式な入り口と言われる『不死門』を通ると、『極限で似るものの家』があります。

屋根は岐阜県の形をしており、地面には岐阜県とその周辺の地図が描かれています。丸くくり抜かれているのは結構深い穴!

『極限で似るものの家』(内部・部分)

中はやはり迷路状態。ここは住めるようで住めない家。足元に気をつけて天井も見上げてみて。

ちなみにパンフレットには2人からの提案として、「今、この家に住んでいるつもりで、また隣に住んでいるようなつもりで動き回ること」と書かれています。

精緻の棟』(外観)

そこから、急な坂を登ると『精緻の棟』。中にも入れます。自分が真っ直ぐ立っているのか、地面が傾いているのか分からなくなる、人間の持つ遠近感や平衡感覚を狂わせる不思議な体験!

この坂面を端まで行くと、すり鉢状の土地に9つのパビリオンが展開する楕円形のフィールドが見えます。

楕円形のフィールド(部分)

パビリオンに行く為に溝を歩いていたらそれがいつの間にか道となっていたり、道だと思い歩いていたらそれが壁になっていたり、壁がいつの間にか屋根になっていたり、多分こうなるはず、という予想がどんどん裏切られ、今度は騙されないぞ!と思いながらいつの間にか騙されている、驚きの連続です!

       壁のような御根のような世界の道

それでも、道にはニューヨーク、中国、サンクトペテルブルグなど、世界中の幾つもの都市の道路が描かれているので、世界中を冒険して歩いている様な、道の端から下を見下ろすと世界征服した様な気分に!

楕円形のフィールドの様子(部分)

荒川氏とギンズ氏が選んだ24種類の薬草が栽培されている園内では、サイズ感、世界観のズレが重なって今どこにいるのか分からなくなる不思議な体験ができます。

近年、インスタ映えする写真が撮れる、外国人が選ぶ無名だけど素晴らしい日本の観光地に選ばれた、などで再注目されていますが、園内には平らな所がほとんど無く、危険かも?と思う箇所もあるので、歩きやすい靴、出来たら登山靴で行かれると思いっきり楽しめるでしょう。

可能であれば、死ぬ前に、是非一度訪れてみて下さい。お薦めです!


養老天命反転地

荒川氏は自身の30年にも及ぶ構想を具現化しようと土地を探し続け、出身地の愛知県に近いここ、岐阜県の養老郡養老町に相応しい場所を見つけました。開園は1995年です。

荒川修作氏(1936-2010)は、武蔵野美術大学を中退し、まもなくニューヨークに渡り、そこで、マドリン・ギンズ氏(1941-2014)と出会い共同制作を始めます。初期は立体、平面、と言った作品が多かったのですが、1990年ごろより、人間の行動に影響を与える建物や庭園などに注目し、作品化していきます。

荒川修作氏とマドリン・ギンズ氏による国内の建築プロジェクト作品は他にもあります。

・「偏在の場・奈義の瀧安寺」奈義町現代美術館:岡山県、建築家、礒崎新氏とのコラボレーション(1994年)

・「養老天命反転地」:岐阜県(1995年)

・「三鷹天命反転住宅」:東京、設計;安井建築設計事務所 施工;竹中工務店(2005年)


「三鷹天命反転住宅」に関しては、よろしければこちらをご参照下さい。

【アート通信ー13 : 「三鷹天命反転住宅」】














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