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【アート通信ー93:「すみだ北斎美術館」】

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第93回目のアート通信は、東京都墨田区にある 「すみだ北斎美術館」 からです。 「すみだ北斎美術館」外観  「すみだ北斎美術館」は、墨田区で生まれ育った江戸時代の世界的天才画家、 葛飾北斎 (1760-1849)を広く紹介する為に、2016年に開館しました。 北斎の作品は、鎖国中密かに持ち出された陶器の包み紙に偶然使われた事でヨーロッパ人にも知られ、ゴッホやモネ、といった大家に影響を与えたと言われています。 また、現在のパスポート(2020年〜)の査証欄の図柄は、北斎の「富嶽三十六景」ですね。 そんな世界に誇る日本の芸術家の生涯はとてもユニーク。早速ご案内していきましょう! *こちらの美術館は、彼の偉業、作品を広く紹介する為に出来た美術館で、常設 展の作品は全て 実物大精細レプリカです。しかし北斎研究家、鑑定家でもない限りその違いは分かりませんし、北斎を知るには充分でしょう 。 常設展の入り口付近 常設展 の入り口 〈 隅田と北斎 〉では、彼の生活圏についての紹介があります。その90年の 生涯のほとんどをこの墨田区界隈 で過ごし、 引っ越しはなんと93回! その理由は掃除が嫌い。ひたすら絵を描いていたいので、生活出来ないほど汚くなると引っ越す、を繰り返していたとか。火事で焼き出された事もあります。 タッチパネルで表示されるので、狭い範囲をうろうろしていた事が視覚的に分かり面白いですよ! 常設展 展示風景 会場は時代ごとに分けての案内。コンパクトな美術館なので観やすいのも嬉しいところ。 錦絵(浮世絵版画)が出来るまでを分かりやすく解説しているコーナーもあります。 「湯治場八景しゅぜんじのばんしょう」(1781-89)   実物大精細レプリカ まずは 〈 習作の時代 1760-1794 〉 北斎は6歳から絵を描き始め、14歳では版木彫りの仕事につきます。そして19歳で、役者絵を描いていた勝川春章  (かつかわしゅんしょう) に入門、翌年「勝川 春朗 ( しゅんろう) 」の雅号でデビューします。 ちなみに 雅号は この後、 30回以上も代えていきます 。 「新板浮絵新吉原大門口之図」(1809-13)  実物大精細レプリカ  〈 宗理様式の時代 1794-1804 〉  35歳の時、勝川派を出た北斎は雅号を「 宗理 ( そうり) 」に代え、江戸琳派で活躍します。そして

【アート通信ー92:「大巻伸嗣 真空のゆらぎ」展】

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 92回目のアート通信は、現在、六本木の 国立新美術館 にて開催中の 「大巻伸嗣 真空のゆらぎ」展 からです。 大巻伸嗣氏(1971-)は、そのキャリアを彫刻からスタートさせましたが、現在は、 《存在とは何か?》 をテーマにした空間をはじめ、ダンサーとのコラボレーション、舞台美術なども手掛けています。 「Gravity and Grace」(2023) 会場に入るとまず、巨大な空間とそこに鎮座し光を放つ不思議な壺に目を奪われるでしょう。 「Gravity and Grace」(2023) 紙のように軽やかに見えるこの壺は、実はステンレスで出来ており、そこには植物・鳥・人などが繊細に刻まれています。そしてそれらは壺の中から放たれる強い光で浮き彫りになり、影絵にもなっています。 「Gravity and Grace」(2023) 部分 よく見ると、巨大な葉っぱや花などが絡む、植物ジャングルの中を歩く人の列も見えますよ。 「Gravity and Grace」(2023) 会場では、床・壁・天井に映し出され刻々と変わっていく景色と、自分がそこに存在し何かに包まれている感じも、是非味わって下さい。 大巻氏は、この作品では、《エネルギーに過度に依存した今日の社会を批評し、原子力が生み出した未曾有の人災、核分裂反応の爆発的なエネルギー》も意識しているそうですが、 「Gravity and Graceーmoment2023」 私はむしろ次の部屋に展示されている、こちらの作品からそれを感じました。こちらは、印画紙の上に直接ものを置き焼き付けるフォトグラムの手法を用いています。みなさんはどのように感じられるでしょうか。 記録映像の上映とドローイングの展示 《存在とは何か?》を追求するにあたって、氏は《空間との境界線となる身体の動き》に注目し、早くからダンサーとのコラボレーションに取り組み、その舞台美術も手掛けています。 続く部屋では、氏が今まで手掛けてきた舞台美術などを紹介しています。 「 Rain 」(2023)の記録映像 ゆったり椅子に座って、過去に上演された 「 Rain 」 (2023) 「 Futuristic Space 」 (2019) 「 freeplus × HEBE× 大巻伸嗣」 (2019)の記録映像を鑑賞出来るのは、かなりのお得感!そしてこれを観ると、《空間と

【アート通信ー91:「棟方志功展」】

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91回目のアート通信は、現在、 東京国立近代美術館にて12月3日(日)まで 開催中の「生誕120年 棟方志功展 メイキング・オブ・ムナカタ」 からです。 この展覧会は、「富山県美術館」「青森県立美術館」と巡回し、東京が最終地です。 ここでは、ポイントとなる作品と共にご案内します。 展覧会入り口 棟方志功(むなかたしこう)は、1903年に青森県青森市に生まれました。 18歳の時に、雑誌でゴッホの 「向日葵」を見て画家になる事を決意。時間さえあれば写生をし、本を読み、地元で芸術グループを結成するなど活発に活動し、 21歳で上京します。 『星座の花嫁』より「聖堂に並(なら)ぶ三貴女」(1928) 南砺市立福光美術館 上京後は、同郷のネットワークや文学仲間からもらった 挿絵や装幀の仕事をしながら 油画を描き続けます。 しかし 帝展は毎回落選。そこで油画を諦め、 日本独特のもの、 木版画で挑む事を決意 します 。 世界のムナカタへのスタートです。 しかし当初は、日本独自のものと言いながら西洋のモチーフも制作していました。 上の写真は、 版画公募展で初入選となった4点のうちの1点です。 会場にはこんな可愛らしいムナカタの作品がこの他9点あり、必見です! 「大和し美わし」(1936)より『剣の柵』『矢燕の柵』 日本民藝館 そしてこちらは、佐藤一英氏の、日本武尊(ヤマトタケルノミコト)の一代記を詠った 長編詩を版画化した作品 「大和し美わし」 です。文字と絵が渾然一体となって進んでいくスピード感溢れる作品で、 彼が作品に文字を用いた初めての作品 でもあります 。 そして 実は、棟方が世に出て行くきっかけとなった作品 でもあるんです 。 棟方は、この作品を第11回国画会展に搬入しましたが、サイズ超過で展示拒否に遭ってしまいす。そこを偶然通りかかった審査員の濱田庄司氏と柳宗悦氏が取りなし展示可能に。更に、この作品を気に入った柳氏はなんと、開館予定の日本民藝館の所蔵作品としてこの作品を買い上げたのです!これをきっかけに棟方は民藝運動のネットワークにも迎えられ、作品も大きく前進していきます。 「慈潤」(1945) 日本民藝館 空襲が激しくなり、棟方一家は、民藝運動の河井寛次郎を通して知り合った光徳寺の住職の招きで、 富山県の福光に疎開します 。疎開先では、版画に用いる板の不足から、筆で書や

【アート通信ー90:丸の内が面白い「大丸有アートアクション」】

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 90回目のアート通信は、東京・丸の内からです。 薄久保香 「すぐ傍に見つけたあなたの分身」(2023) 部分 丸の内と言えば、言わずと知れたビジネス街。遊ぶ、のんびりするというイメージからは遠いかも知れませんが、実は通り沿いに彫刻が設置された「丸の内ストリートギャラリー」があったり、歩行者天国があったりと、都会のアートオアシスのようなスポットとなっています。 また、現在「大丸有アートアクション」という無料のアートイベントが11月5日(日)まで開催されていて、丸の内はより面白くなっていますよ! ティモ・ソリン「日光浴をする女」(1995)  彫刻の森芸術文化財団蔵 「丸の内ストリートギャラリー」は、〈丸の内仲通り〉を中心に19点の作品が設置され、歩道を歩きながら自由に作品鑑賞出来る様になっています。 多くの作品は3年に1回のペースで「彫刻の森美術館」の作品と入れ替えられますが、ここでは、〈丸の内仲通り〉の為に作られた作品3点をご紹介します。 船越圭「私は街を飛ぶ」(2022)  1作目は、船越圭氏の 「私は街を飛ぶ」。氏は木彫に着色を施し、 柔らかな雰囲気を醸し出す事 で有名 ですが、こちらは珍しくブロンズに着色した作品。 ブロンズでもその柔らかでどこか不思議な空気感は健在です! 中谷ミチ子「小さな魚をだいじそうに運ぶ女の子と金ピカの空を飛ぶ青い鳥」(2022) 2作目は、 中谷ミチ子氏の 「小さな魚をだいじそうに運ぶ女の子と金ピカの空を飛ぶ青い鳥」。こちらもブロンズの作品です。魚は少女が運んでいると分かりますが、青い鳥はどこ?金ピカの空とは?現場で見つけて下さいね。 中谷ミチ子「小さな魚をだいじそうに運ぶ女の子と金ピカの空を飛ぶ青い鳥」(2022) 部分 また、こちらの女の子の視線は観る側の立ち位置によって変わってくるのも面白いポイントです。どの様に変わるのかは、実際にそこに立ってみてのお楽しみです。 シャーロット・デ・コック「HYPERNOVA」(2023) そして、現在開催中の「大丸有アートアクション」は、この〈丸の内仲通り〉を中心に展開しています。大丸有とは、大手町・丸の内・有楽町の略で、2年に1回開催される国際芸術祭「東京ビエンナーレ2023」の会場の一部でもあります。 大手町ファーストスクエアの外壁に描かれたこちらの壁画は、シャーロット・デ・コック氏によ

【アート通信ー89:「ワールドクラスルーム」】

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 89回目のアート通信は、現在、東京・六本木の 森美術館 で開催中の展覧会 「ワールドクラスルーム:現代アートの国語・算数・理科・社会」 からです。 展覧会会場入り口付 国語・算数・理科・社会、という単語が出てくるとお勉強のようですが、現代美術の作品をこれらの視点でジャンル分けしてみた、というだけでの話です。 今回は印象に残った作品、あるいは分かりやすいと思った作品を何点か選んでご案内します。 [国語] 米田知子「見えるものと見えないもののあいだ」シリーズ 展示風景 米田知子 氏の写真作品 「見えるものと見えないもののあいだ」シリーズでは、 歴史上のある瞬間を彼女の視点で写真上に再構築してみる、といった試みがなされています。 『マーラーの眼鏡ー交響曲(未完成)第10 番の楽譜を見る』(1999) その中で、『マーラーの眼鏡ー交響曲(未完成)第10 番の楽譜を見る』 では、未完成となった交響曲第10番の楽譜を、今、マーラーの眼鏡を通してみてみたら、という試みです。撮影に使用している眼鏡、楽譜は彼が使用していた実物です。 イー・イラン「ダンシング・クイーン」(2019) 部分 こちらはマレーシア在住の、 イー・イラン 氏の作品です。彼女は、ボルネオ島の様々なコミュニティの織手と協働で作品を発表しており、こちらの竹の繊維の織物には女性歌手たちの有名なヒット曲の歌詞が織り込まれています。 イー・イラン「ダンシング・クイーン」(2019) 織手が女性であることを考えると、それは女性たちへの応援歌にも見えてきます。 イー・イラン「TIKARA/MEJA(マット/テーブル)」(2022) 展示風景 また、彼女は自身の作品を販売して地域のコミュニティーセンターを設立する、というプロジェクトにも取り組んでいます。 [社会] 森村泰昌「肖像(双子)」(1989) 森村泰昌 氏の写真作品です。画面に映っている人物は全て森村氏自身で、有名なマネの「オランピア」(1863)の構図をなぞっています。 マネの作品では、当時、描かれる裸婦と言えば女神であったのに、娼婦を描き物議を醸し出しました。 森村泰昌「モデルヌ・オランピア2018」(20117-2018) 森村氏の作品では、それをさらに進化させ、性別、国籍の問題にまで踏み込んでいるのが読み解けますでしょうか。 「グラフィック・エクスチェンジ」