【アート通信ー60:「Tokyo Contemporary Art Award受賞記念展」】

 引き続き海外のアート情報をお送りする予定ですが、60回目のアート通信は、現在、東京都現代美術館で開催中のTokyo Contemporary Art Award受賞記念展」があまりにも印象深かったので、まずにそのご案内をします。

Tokyo Contemporary Art Award受賞記念展」ポスター

〈Tokyo Contemporary Art Award〉とは、東京都と公益財団法人により、国内で実績がある中堅アーティストの更なる飛躍を目的に作られた賞で、受賞者には賞金の他、海外での活動支援、そして2年後の展覧会開催が約束されています。そしてその記念すべき第1回目の受賞は下道基行氏(1978-)と風間サチコ氏(1972-)でした。この2人の受賞記念展覧会が東京都現代美術館で開催されているのです。

下道基行氏の作品瀬戸内「     」資料館」を美術館展示室で再現

美術と言えば、視覚に訴える美しいもの、というのが一般的な認識かと思いますが、現代美術では、むしろ何を伝えたいのか、何を訴えたいのか、という要素がとても大事になってきます。今回の下道氏の展示では、まず会場に入ると、あれ?と戸惑います。作品と思われるものが見当たらないのです。目の前に広がるのは、展示準備室のような空間のみ。しかしこの空間そのものが作品なのです。

《瀬戸内「     」資料館》(2019-)を展示室で再現

《瀬戸内「     」資料館》は、直島に実在する資料館で、館長は下道氏です。期間限定で「  」内に入るプロジェクト名が変わります。色々な角度から調査、資料収集をし、展示します。これまで、瀬戸内の風景を撮影し続けた《瀬戸内「緑川洋一」資料館》(2019)、瀬戸内の観光の歴史を考察する《瀬戸内「百年観光」資料館》(2020)が開催されてきました。ここではその展示が再現されており、私達が知らない瀬戸内がじわ〜とあぶり出されています。

「14歳と世界と境」(2013-)

また「14歳と世界と境」は、「境界線」をテーマに各国の14歳に質問し、その答えが通常のニュースと共に地元の新聞に掲載されるというユニークなプロジェクトです。14歳は大人と子供の狭間とも言える年頃で、その14歳の呟きは、ナチュラルに各国各自のリアルな事情も浮かび上がらせます。

膨大な調査から日常に埋没する事実や歴史に焦点を当てる氏の作品を観ていると、当たり前の様な日常がちょっと違う日常に、見慣れた景色がちょっと違う景色に見えてきます。もしかしたらそれは、敢えて目を向けないようにしてきた事実なのかもしれません。

「戦争のかたち」(2001-2005)

下道氏は「第58回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展(2019)」の日本代表作家でもあり、これまでにも、日本各地に残る軍事施設跡を廻り調査・撮影した作品「戦争のかたち」(2001-2005)や、海外に残る日本の植民地時代の遺構とも言える「鳥居」を撮影した作品「torii」(2006-2012)など、日常に埋没し、忘れられそうになっている歴史的事実を独自の方法で浮き上がらせてきた事で知られています。

風間サチコ氏の初期作品「存在の同じ家」(1997)

一方、もう1人の受賞者、風間氏の作品は黒一色の木版画の圧倒的な迫力で視覚に迫ってきます。しかしそこには綿密なリサーチに裏付けられた深い考察が潜んでいます。是非、会場で体感してください。

表現の仕方は違いますが、気しくも2人の受賞者には共通点があります。それは膨大な調査、考察の上で制作されているという事。だからそこに滲み出てきたものに惹きつけられ、心引かれていくのでしょう。

今回の展示では学芸員ではなく作家が全て自由に設置したそうで、なるほど、静かな空間の中で作家の息遣いが感じられました。東京都現代美術館にて6月20日(日)まで。無料!


東京都現代美術館

Tokyo Contemporary Art Award


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