【アート通信ー47:香川県「豊島美術館」が出来るまで】

第47回目のアート通信は、香川県の「豊島美術館」が出来るまで、です。

「豊島美術館」は瀬戸内海に浮かぶ面積14.5㎡の小さな島、豊島にある美術館で、2010年に開館しました。「ベネッセアートサイト直島」で有名な公益財団法人福武財団により運営されています。

水滴をイメージした美術館外観

「美術館」という名称ですが、ここには内藤礼氏(1961-)の「母型」という作品しか展示していません。鑑賞時間は早い人なら3分程、入場料は1570円。しかもここまでの道のりは、高松から豊島まで船で約30分(1日3〜5便 *鑑賞に間に合う便は2〜4便)、港から美術館まではバスで15分(1日数本)、と気の遠くなる道のりです。

それでも、海外も含め沢山の訪問者が引きもきらないのは、ここが奇跡のような特別な場所だからでしょう。では、そもそもその奇跡のような場所「豊島美術館」はどのようにできたのでしょうか?

海を望む小高い丘の中腹に位置する美術館敷地

敷地・建物・インテリアのデザインを担当した西沢立衛氏(1966-)のもとに依頼が来たのは着工よりだいぶ前、2004年頃だそうです。しかもその時は豊島ではなく、同じ瀬戸内海の島、直島が候補地だったそうです。展示する作家や作品もまだ決定しておらず、ただ、アート建築自然の一体化、というコンセプトだけははっきりしていました。

美しい棚田が広がる美術館周囲

ベネッセ側と話し合いを重ねる中でイメージする建物にふさわしい場所は、直島ではなく豊島だ、となりました。その中でもここ、美しい棚田が広がる唐櫃に等高線にそうような建物を作ろう、イメージは水滴、とほぼ決まった2007年、内藤氏に作品依頼がいきました。彼女はこの話を聞いた時とても驚いたとそうです。なぜなら、彼女がずっと追い求めテーマ、“地上に存在していることは、それ自体、祝福であるのか”に沿った企画だったから。

巨大な水滴、もしくは残雪にしか見えない美術館建物外観、部分

こうしてコンセプトに共感共鳴し、互いにディスカッションを重ねて、ここでしか見られない特別なアートが生み出されていきました。これら3つのうち一つが欠けても成立しませんでした。それにしてもこれら3つの要素はずっと昔からここにあったかのように、これからも永遠にここにあるかのように見事に調和しています。それに人々は感動するのでしょう。

四季により表情を変える美術館敷地

ところで、この空間の実現には緻密で正確大胆な施工者・職人が必要でした。言わば縁の下の力持ちです。彼らの果たした役割はことのほか大きい、と先日再訪してしみじみ感じました。この建物実現までの技術的な詳しい過程は以下が参考になります。

棚田に埋もれるように位置する美術館敷地

機会があれば是非、この奇跡のような場所に足を運んでみて下さい。但し、瀬戸内トリエンナーレ開催中は混み合うので注意が必要です。また逆に、オフシーズンは週末のみの開館なのでこちらも注意が必要です。

「豊島美術館
建築主:公益財団法人 福武財団
設計 監理:一級建築士 西沢立衛建築設計事務所
構造:(株)佐々木陸朗構造計画研究所
施工者:鹿島建設(株)中国支店 建築工事部長 豊田郁美
アート作品:内藤礼


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