32回目のアート通信は、2004年にオープンした金沢市の市立美術舘
「金沢21世紀美術舘」です。
こちらの美術館は、特徴ある建物のデザイン、恒久展示作品のユニークさ、企画展のレベルの高さなどで金沢のみならず全国から注目を集めている美術館です。今回は、もし企画展の内容に興味がなくても楽しめる無料のお薦めポイントを中心にご案内していきます。
ポイントその1:建物のデザイン
建物は、フランスの「ルーブル美術館」(ランス)、ローザンヌ連邦工科大学ラーニングセンターなどを設計した事でも知られる
SANAA(妹島和世+西沢立衛)によるものです。正面性はなく入口は4箇所。敷地に塀は設けず、公園に入るようにな感覚で足を踏み入れられるようにデザインされています。
SANAAは、この建物で第9回ヴェネチア建築ビエンナーレ展示部門金獅子賞を受賞しました。
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歩道と敷地の間には段差も無い |
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建物は1階と地下のみで、空間を遮る事なくちょこんと置かれたように存在している |
サークル状の壁面は全てガラスで、内側に展示室が設けられています。そしてガラス壁面と展示室の間は、入場料を払わなくても自由に出入り出来る無料の交流ゾーンになっています。(→ポイントその3:無料の交流ゾーン)
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館内からも広々した敷地を望むことが出来る |
特長その2: 屋外彫刻
敷地内には参加型の楽しい屋外彫刻が点在しています。
3原色で構成された渦巻き状の形に吸い込まれていくように人が入って行くこちらは、オラファー・エリアソン(1967ー)の「カラー・アクティヴィティ・ハウス」です。立つ位置により色の交じり合いが変化し、見慣れた景色が不思議空間へと一転していきます。
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オラファー・エリアソンの「カラー・アクティヴィティ・ハウス」 |
一方、周りの景色の写り込みから地球の丸さまで感じられるこちらの作品は、建物の設計者でもあるSANAAによる「まる」です。表側を写真に収める人が多いですが、是非内部にも潜り込んでみて。また違う世界が展開していますよ!
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SANAAの「まる」 |
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SANAAによる「まる」内部 |
そして私が好きなのはこちら。フロリアン・クラール(1968ー)による「クランクフェルト・ナンバー3」。全部で12個ある吹き出し口の模様に注目です。同じ形のもの同士が繋がっているので、「お〜い!」と呼びかけると、かなり離れていても同じ形の吹き出し口から「お〜い!」と聞こえてきて話が出来ます。糸電話のようで楽しいですし、これなら普段言いにくい事も簡単に伝えられるかもしれません。また、見知らぬ人と偶然対話出来てしまうのも面白いですね。
*「クランクフェルト」とはドイツ語で「音のフィールド」という意味です。
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フロリアン・クラールによる「クランクフェルト・ナンバー3」 |
ポイントその3:無料の交流ゾーン
これがこの美術館の最も大きな特長かもしれません。
館内には有料の「展覧会ゾーン」と無料の「交流ゾーン」があります。その無料「交流ゾーン」の中には、通常の美術館でしたら入場料を払っている恒久作品の展示室も含まれています。
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丸くガラスで囲まれた館内の濃いグレーの部分が「有料の展覧会ゾーン」、その周りは全て無料で入場・利用できる「交流ゾーン」
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その1つがこちら。タレルの部屋です。部屋そのものがジェームズ・タレルの作品となっています。
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ジェームズ・タレル「ブルー・プラネット・スカイ」 |
ジェームズ・タレル(1943ー)は、光を体験する空間を発表し続けていることで知られている作家です。こちらの作品は壁際のベンチに腰を掛け、切り取られた天井から空を眺めていると、そこに吸い込まれそうになりながら刻々と変わっていく空の変化、光の変化を楽しめます。
一番身近にあり当たり前と感じていたるものに意識を向け、何かを感じて欲しい、というのが彼の意図なのでしょう。ここを訪れると気持ち良くなり、不思議な感覚に動けなくなってしまう人が多いようです。
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ジェームズ・タレル「ブルー・プラネット・スカイ」 |
その他、だまし絵のような手法を巧みに操るレアンドロ・エルリッヒ(1973ー)の作品「スイミング・プール」も人気です。無料ゾーンではプールの中に入る事は出来ませんが、外から覗き込むと、水の中から上を見上げている人と目が合ったり、その不思議な感覚を楽しむ事が出来ます。
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レアンドロ・エルリッヒの「スイミング・プール」 |
ポイントその4:館内設備デザイン
美術館内の設備デザインもとてもお洒落です。
例えば階段の吹き抜け空間の地上と地下を結ぶエレベーター。ここには箱を吊るすロープが存在しません。円筒形の柱が伸び縮みしながら透明の箱を押し上げています。吊るしているものが無い分空間が大きくなり開放感があり、また不思議な感じもします。
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ガラスの箱が動いた! |
遊び心は展示空間にも!
無料の「交流ゾーン」にある展示室の壁が一部がくり抜かれ、向こう側の景色を作品かと勘違いしてしまいます。
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インスタレーションルームの壁は一部が抜けている |
また、舘内のあちこちに設置されている椅子もお洒落です。
この長い長いベンチは一体何メートルあるのでしょう?誰も座っていないとまるで彫刻作品のようです。鑑賞の合間の休憩に、待ち合わせに、そして外の景色を鑑賞する為にと活用されています。
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なが〜いなが〜いまっすぐの木のベンチ |
こちらの椅子も可愛い!
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ウサギ顔の椅子がずらり! |
おまけその1:茶室も必見!
現代的な美術館の建物とは対照的に、敷地内には加賀藩ゆかりの茶室が2つあります。「松涛庵」と「山宇亭」です。どちらも見学は自由で、予約すれば使用する事も出来ます!
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1951年に高岡市からこちらに移築された「山宇亭」 |
おまけその2:カフェのランチが凄い!
美術館のカフェはお洒落であって欲しい!そして美味しくあって欲しい!この2つを見事に叶えているのがここ「Fusion21」です。メニューに加賀野菜など地元食材を積極的に取り入れているのも嬉しいところ。ガラス張りの空間で外の景色を堪能しながらゆっくり食事を楽しめます。
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前菜はビュッフェ式でパレット型のお皿に好きなだけ盛れる |
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メインは肉・魚・パスタから選べる |
北陸新幹線が開通して「金沢」はますます行きやすくなりました。金沢観光のついでに美術館に寄るのも良し。美術館訪問のついでに金沢観光をするのも良しです。
こちらは、機会があったら是非訪れて欲しい、また訪れるべき美術館の1と言えるでしょう。
金沢21世紀美術舘