【アート通信ー20:「生きた建築ミュージアムフェスティバル大阪2017」】

10月28日(土)29日(日)に大阪で開催された「生きた建築ミュージアム フェスティバル大阪」に行って来たので、今回はそのご報告をしたいと思います。

設計:村野藤吾 /  竣工:1964年 / 「浪花組本社ビル」外観

「生きた建築ミュージアム フェスティバル大阪」とは、2013年に大阪で試みとしてスタートして以来、今回が5回目になるイベントです。ここでは都市の営みの証として変化・発展しつつ、魅力を発揮し続ける建築を「生きた建築」と定義しています。そして2日間、建物内部の特別公開や、オーナーによる解説が行われます。まちを1つの大きな美術館と捉えているのでこの名称となったのでしょう。そしてこれらは全て所有者・関係者の好意で成り立っています。

設定:安井武雄 / 竣工:1924年 /「大阪倶楽部」内部

無料公開された建物は公式ガイドブックに載っているだけでも78棟!更に今年は御堂筋が完成して80周年なので、御堂筋沿いではライティングデザイナー長町志穂氏による建物のライトアップも!観光や日常生活では見落としがちな切り口で街を観られる良い機会でした。

長町志穂氏による御堂ビルのライトアップ

見学した沢山の建物から3か所を、ストーリーと共にご紹介します。

1、「船場ビル」登録有形文化財 住所:中央区淡路町2-5-8 竣工:1925年 設計:村上徹一

一見、普通のオフィスビル

1925年の竣工当初も、オフィスと住宅をあわせもつユニークで革新的なビルとして注目を集めたそうです。また、船場という土地柄トラックや荷馬車を引き込める機能も備わっていました。現在もほぼ竣工時の姿のままオフィスビルとして活用されています。

通りに面した入口から入るとこんな感じ。トラックや荷馬車が直接入って来られたのが分かる。

〈ストーリー〉
最近は、フランスのアパルトマンみたいでお洒落!と評判を呼び入居待ちになる程の人気ビルですが、20年程前は空室が目立ち、ゆくゆくは取り壊される運命と思われていました。ところが、当時4階に入居していた環境デザイナー二見恵美子氏の働きかけによりそれは変わります。テント・ドア・看板などの統一、植栽やベンチの配置、屋上緑化が行われ、モダンでお洒落な人気ビルへと変貌を遂げました。

ドア・看板などを統一しただけでぐっとお洒落になった中庭。植栽も大事なのが良く分かる。

屋上は入居者の素敵な安らぎスペース


2、「新井ビル」登録有形文化財 住所:中央区今橋2-1-1 竣工:1922年 設計:河合浩蔵

新井ビル外観。貸事務所には右の扉からアクセスする。

報徳銀行大阪支店としてこの地に建てられました。銀行らしい石積シンメトリーの重厚な姿。2階から上は、タイルも使用され軽やかな印象です。1・2階は店舗として、3・4階は貸事務所として使用されています。3・4階へは吹き抜けの美しい廻り階段で上がって行くのですが、かつてはこのスペースにエレベーターが設置されていました。しかし戦時中の金属供出で撤収されたそうです。

かつてはこの階段スペースにエレベーターが設置されていた

 〈ストーリー〉
その1:新井ビルになるまで
新井証券株式会社社長が、1934年にこのビルを取得し新井ビルと命名しました。本店業務は1・2階で、3階・4階は貸事務所にしました。
その2:ビル存続の危機
先代の社長時に一度、取り壊しを決定します。彼は現経産省でグッドデザイン(Gマーク)の立ち上げに携わり、丹下健三氏、清家清氏などの建築家・デザイナーとも人脈もあり、1965年の日本万博協会でも働いた人です。そんな人が取り壊しを考えたのは驚きですが、それほど古いビルの運営は難しいのでしょう。しかし日本建築学会からの保存要請などもあり撤回。そして1・2階の店舗スペースに「スエヒロ」が入居(現在は洋菓子「五感」が入居)、ビルの外観など守れるところは守り、内部を適宜リノベーションして活用していく、という今のスタイルが定まりました。

入居している洋菓子店は建物の雰囲気に良く合っている

3、「今橋ビルヂング」登録有形文化財 住所:中央区今橋4-5-19 竣工:1925年 設計:不詳 *2005改修

3階建ての結構凝ったつくりの建物

こちらはなんと、「旧大阪市中央消防署今橋出張所」です。正面中央の赤いランプがその歴史を物語っています。消防署にしてはお洒落な作りですね!現在は「ダル・ポンピエーレ」というイタリアン・レストランになっています。

入口にある赤いランプは元消防署の名残

〈ストーリー〉
2005年に大阪市は財政改善のために、旧・大阪市中央消防署今橋出張所を入札にかけました。購入者には取り壊しの権利もあり、この美しい建物が失われる危機でした。ところが、購入した方は取り壊しなどせず、耐震補強を施した後、レストランに貸し出しました。店名の「ダル・ポンピエーレ」は、イタリア語で「消防士」という意味だそうです。元車庫だった天井の高い1階はキッチンとカウンター、元待機室の2階はテーブル席、司令室があった中2階は個室、と上手に利用されています。ここはお味も良いのですが、歴史が物語る独特の雰囲気が、お店の人気に貢献している事は間違いないでしょう。

消防署員が駆け降りたであろう店内の階段

いかがでしたか?
よく建物の数だけストーリーがある、と言われますが本当にその通りで、ご紹介出来なかった建物全てに興味深いストーリーがありました。また今回、建物の表情がとても優しい事に気が付きました。時代性もあると思いますが、土地柄も関係しているかもしれません。どんな人がどのような建物を作るのかはとても大事ですが、もっと大事なのは、どんな人がどの様に使うのか、使い続けられるのか、という事だとつくづく感じた2日間でした。

まだまだ、ご紹介したい建物はいっぱいありますが、やはり建築は自分の眼で観るのが一番です。ご興味のある方は是非、来年足を運ばれて下さい。
参考までに、
生きた建築ミュージアムフェスティバル大阪2017

また、以下は現在開催中のものと近日開催予定のものです。
「船場を遊ぼう」 (古典芸能×近代建築)9月12日(火)~11月28日(火)
「博覧会船場」(船場を愉しむ7日間)11月17日(金)~23日(木)






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