【アート通信ー99:「結 MUSUBI」展】

 99回目のアート通信は、現在、東京・上野の東京国立博物館・表慶館にて開催中の「カルティエと日本 半世紀のあゆみ『結 MUSUBI』展ー美と芸術をめぐる対話」からです。

会場の東京国立博物館・表慶館 (正面部分)

この展覧会は、カルティエが日本に最初のブティックを開いてから50年を記念して開催されています。

カルティエはフランスの高級宝飾品ブランドとして知られていますが、パリには「カルティエ財団現代美術館」という美術館があり、世界各国の注目すべきアーティストの紹介をするなど、実は美術にとても力を入れている会社なんです。

会場の東京国立博物館・表慶館 (斜めより部分)

会場の表慶館は、6つある東京国立博物館の建物(本館、 平成館、 東洋館、法隆寺宝物館、黒田記念館、表慶館)のうちの1つで、明治時代に建てられた、まるで宮殿のような作りの建物です。設計は、宮内省の建築家・片山東熊で、1908(明治41)年に完成。日本人が設計した洋風宮殿建築の極みとして、1978(昭和53)年には重要文化財に指定されています。

澁谷翔「日本五十空景」(2024) 作家蔵

展覧会は、そんな建物の構造も存分に生かした構成です。

入り口を入ってすぐの円形回廊では、今回の展覧会の為に制作された、澁谷氏による「日本五十空景」(2024)が円形ホールをぐるっと囲むように展示。

この作品は、歌川広重と「東海道五三次之内」(1832)へのオマージュでもあります。氏は、日本橋から出発し、35 日で47都道府県全てを訪れ、そこで広重も見ていたであろう空の景色を、その土地の地元新聞の一面に描いていきました。裏面は同紙面となっているので、こちらのチェックも忘れずに!

〈カルティエと日本〉 展示風景

ここからは、左右対称の建物構造を生かし、主に右側が〈カルティエと日本〉についての展示、左側が〈カルティエ現代美術財団と日本のアーティスト〉の紹介、という展示構成になっています。

「大型の『ポルティコ』ミステリークロック」(1923) カルティエ コレクション

まずは、右側の 〈カルティエと日本〉 から。

創業者の孫にあたるルイ・カルティエは、19世紀末より日本の“かたち”に興味を持ち、様々な収集をしてきました。それは印籠や和紙の型紙などで、その数は200点以上に及びます。

まず一番初めの部屋ではそういったコレクションからインスピレーションを得て生み出されたカルティエ作品の数々が展示されており、中々興味深いですよ。

例えば上の写真は、日本の鳥居の“かたち”にインスパイヤーされて作られた時計。見えにくにですがトップにビリケンが乗り、ユーモラスでもありますね。


束芋「flow-wer arrangement-」(2018) 作家蔵

展示はそのまま階段の踊り場に繋がっていきます。上の写真は束芋氏の映像作品。時間と共に変化していく幻想的な作品なので、少し立ち止まって鑑賞するのがお薦めです。

彼女のもう1点の作品 (2006-2007年のカルティエ財団現代美術館の個展で展示、同財団にコレクションされた作品) は、反対側の階段踊り場に展示されているので、そちらもお見逃しなく!

Table 17「エットレソットサスの目がとらえたカルティエ宝飾デザイン」展の紹介より

2階では、これまで日本で5回開催されてきたカルティエの展覧会を振り返る形で、素晴らしい宝飾品の展示がなされています。ボックスごとの紹介で、とても観やすい。圧巻です!

横尾忠則氏の作品が展示してある2階の円形回廊

2階の円形回廊に展示されているのは、カルティエ財団からの依頼で2014年より続けている横尾忠則氏の「ポートレートシリーズ」です。そして描かれているのは、カルティエ財団とコラボレーションを続けてきた日本人アーティスト達!

三宅一生「Flying saucer, ISSEY MIYAKE Spring-Summer 1994 Collection Color」(1993) Collection  Miyake Design Studio

2階の円形回廊を過ぎると、ちょうど建物の左側に移った状態なので、ここから〈カルティエ現代美術財団と日本のアーティスト〉のメインスペースです。1984年のカルティエ財団創設から40年の間に招聘された日本人アーティストが紹介されており、中川幸夫、川内倫子、森山大道、荒木経惟、宮島達男、北野武など多岐に渡ります。

三宅氏のコーナーでは、パリの「カルティエ財団現代美術館」での展示風景がビデオで流れ、「カルティエ財団現代美術館」に行った事がない方も、その場の雰囲気を味わえるようになっているのも嬉しいところ。

松井えり菜「宇宙⭐︎ユニバース」(2004) Fondation Cartier collections

写真は、松井氏が20歳の頃の作品で、実はキャンバスにオルゴール仕掛けもあり、そのモチーフが動きます。これを制作した時、「キャンバスに穴を開けるなんて!」と先生に怒られたそうですが、そんな若い作家の作品でも、良いと判断した作品は積極的にコレクションしていくのがカルティエ財団の凄いところです。

会場での感動を味わっていただきたいので一部の紹介に留めましたが、この展覧会は、カルティエの日本の“かたち”との関わりの紹介であり、それを作品へどのように昇華させたかの紹介でもあります。また更にカルティエと現代美術(特に日本人アーティスト)との関わりの紹介へと続き、まさに結び付き『結』と言う名に相応しい展覧会と言えるでしょう。

会場、表慶館の美しさと共に、どうぞ存分にお楽しみ下さい。

東京国立博物館・表慶館にて、7月28日まで

*全て許可を得て撮影しています。











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