【アート通信ー98:「デ・キリコ展」】

98回目のアート通信は、現在、上野の東京都美術館で8月29日まで開催されている「デ・キリコ展」からです。 


「デ・キリコ展」ポスター

ジョルジュ・デ・キリコ(1888-1978) は、1888年にギリシャで生まれました。ドイツで絵の勉強をした後、イタリアやフランスで他のアーティストと交流を持ち、やがて形而上絵画(けいじじょうかいが)」という手法を提唱するようになります。

難しい字ですが、形而上絵画とは、目に見えないものを描こうとする絵画で、手法としては、時間や空間を意図的にずらして描く、といったものがあります。これは後のシュルレアリストにも影響を与えました。

私達も、異次元に飛んでいるような状態を『シュール』と言ったりしますが、彼らはまさにその状態を描いた、描こうとしたと言えるでしょう。

「デ・キリコ展」展示風景

展覧会会場の色合いや壁の設置は、まるでキリコの世界に飛び込んだかの様で、作品は年度順ではなく、テーマごとに区切って展示されています。

「デ・キリコ展」展示風景


一番初めの自画像・肖像画セクションでは、彼の人となりや、その画風をざっくり把握で出来ますよ。


「17世紀の衣装をまとった公園での自画像」(1959) ジョルジュ・エ・イーザ・キリコ財団 

例えば、舞台上の人物に扮したキリコの自画像からは舞台芸術との関係や自己顕示欲の強さを推し量れます。また人物と背景のバランスがくずれており、現実には見えない世界をも表現しようとしていた事が解ります。

「デ・キリコ展」展示風景

続く形而上絵画セクションでは、第一次世界大戦の足音を感じ、戦争中の体験から生まれた彼独自の表現とその展開が紹介されています。

形而上的なミューズたち」(1918) カステッロ・ディ・リヴォリ現代美術館(フランチェスコ・フェデリコ・チェッルーティ美術財団より長期貸与)

その中には、彼の作品における代表的なモチーフであるマヌカンのシリーズもあります。

第一次世界大戦が始まった頃より、キリコはマネキンをモチーフの一つとして使い始めます。敢えて顔の見えない人型を用いる事で人間存在の意味を探究していたのでしょうか。

「横たわって水浴する女 (アルクメネの休息) 」(1932) ローマ国立近現代美術館 

伝統的な絵画への回帰セクションも注目です。

例えばこちら、後の妻となるイーザを描いた「横たわって水浴する女 (アルクメネの休息) 」では、ルノワールの作品を連想させるゆったりとした裸婦像ですが、海の描写とのサイズ感が異なり、どこか不思議で、観る者を不安にさせます。

ステージ背景画像:ジョルジュ・デ・キリコ「ナポリの眺め」(1931年頃) マチェラータ県銀行財団 パラッツオ・リッチ美術館 バレエ「プルチネッラ」の舞台セットデザインの為の習作
衣装:バレエ「プルチネッラ」の衣装

彼は絵画のみならず、彫刻や挿絵、舞台美術も手掛けました。

トピックス3 舞台美術の展示では、バレエ「プルチネッラ」の衣装を、背景と共に鑑賞出来るのでこちらも注目ですよ。

ローマの自宅のサロンにて(1968)Photo:Walter Mori

会場内で、元自邸の「ジョルジュ・デ・キリコ邸宅美術館」の紹介が複数の写真でなされているのも嬉しいところ。


サロンで寛ぐキリコの後ろには、お気に入りの作品だったのでしょうか、自画像・肖像画セクションでもご紹介した「17世紀の衣装をまとった公園での自画像」(1959) が見えますね!


「横向きの彫像のある形而上的室内」(1962) ジョルジュ・エ・イーザ・キリコ財団 と展示風景


ごく一部をご紹介しましたが、まずは難しい事は考えず、キリコの絵に迷い込んだ様な素敵な会場の雰囲気に身を任せ、彼の世界に浸ってみてはいかがでしょうか。また、コンパクトに解りやすく解説している音声ガイドもお薦めです。


誰もが写真を撮れるフォトスポット

会場を移動する途中に、誰もが写真を撮れるスポットがあります。思い思いのポーズで写真を撮ってみるのもいいですね。


最後にキリコが残した言葉をお送りします。

『風変わりで色とりどりの玩具でいっぱいの、奇妙な巨大ミュージアムを生きるように、世界を生きる』パリ手稿(1911-1914)より


イタリアっぽく素敵な品揃えのミュージアムショップ


写真は全て許可を得て撮影しています。
©︎Giorgio de Chirico, by SIAE 2024

不思議の世界へ、ようこそ。「デ・キリコ展」8月29日(木)まで

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