【アート通信ー94:「泉屋博古館東京」】

 94回目のアート通信は、昨年リニューアルオープンした東京都六本木にある美術館「泉屋博古館東京」からです。

「泉屋博古館東京」入り口付近

「せんおくはくこかん」と読みます。こちらは住友家が集めた美術品を保管・調査・展示する目的で、京都本館の分館として住友家の別邸があったこの地に2002年に開館しました。なぜ、住友でなく泉屋かと言うと、『泉屋』は江戸時代の住友家の屋号だったから。

「うるしとともにーくらしのなかの漆芸美」展 展示風景

現在「うるしとともにーくらしのなかの漆芸美」展が2月25日まで開催中なので、この展覧会の内容と合わせてご案内します。

中央ホール

展示は中央ホールを中心に放射状に、第1展示室、第二展示室、第三展示室と分かれています。

第一展示室では〈宴のなかの漆芸美〉。第二展示室では 〈茶会のなかの漆芸美〉 〈香りの中の漆芸美〉〈檜舞台の上の漆芸美〉 〈書斎のなかの漆芸美〉と、テーマに沿って紹介されています。そして第三展示室では 〈漆芸の技法〉 が紹介されているのが嬉しいところです。

「唐草文梨子地蒔絵提重 (からくさもんなしじまきえさげじゅう) 」19世紀

例えばこちらはピクニックボックス。4段重とお盆、小引き出しには盃が収納されています。スズで出来た美しい徳利は大きく、飲むぞ!という勢いも感じますね。

*梨子地:斑点がある梨の皮の表面に様子を似せた技法。金銀粉の上に透明な漆を塗り、これを通して金銀粉が見えるようにする技法。
*蒔絵:漆で模様を描き、固まらないうちにそこに金や銀の粉を蒔いて絵にする技法。


扇面謡曲画蒔絵会席膳椀具から丸盆より「竹生島」20世紀

こちらは能が好きだった住友家の15代当主が、漆技法の一人者 八代 西村彦兵衛 (1886-1965 ) に注文した興味深いシリーズです。能楽の謡曲をテーマに、謡曲に出てくるモチーフが象徴的に15枚に描かれています。

例えばこちらは、・・・目の前に弁財天が現れ優美に舞い、龍神が宝珠を授けて豪壮に舞う・・・という場面。

扇面謡曲画蒔絵会席膳椀具から丸盆より「東北」部分  20世紀

こちらは梅の花が咲き誇る京都の東北院を訪れ、読経する旅僧の前に、この梅を手植えした和泉式部の霊が現れ・・・。

いずれの盆にも擦れた跡が見られ、実際に使われていた事が分かります。

「早花文葦手蒔絵盃 (そうかもんあしでまきえはい)」17~18世紀

こちらは轆轤引きされた薄さが美しい盃です。

「早花文葦手蒔絵盃 (そうかもんあしでまきえはい)」17~18世紀

住友家で代々大切にされてきた朱漆塗の祝宴用の盃で、表面には蒔絵や螺鈿で季節の草花が描かれています。

*轆轤引き(ろくろびき):粗びきして乾燥させた木地をろくろと鉋(かんな)を使って更に薄く仕上げていく技法
*螺鈿:形を整えた貝類を漆地に嵌め込む技法


第二展示室以降のお茶道具や香合のお道具もとても美しいのですが、撮影禁止なので展示のご案内はここまで。


ミュージアムショップ

佐治真理子氏の小品

ミュージアムショップは小さいながらも、「泉屋ビエンナーレ」(京都)にも出品していた鋳金作家の佐治真理子氏の小品が販売されていたり、可愛いもの、面白いものもあり、是非覗いてみて下さい。ここでだからこそ購入出来る美術本にも注目ですよ!

ミュージアムカフェ 

軽食メニューも

併設の「HARIO CAFE」は都心とは思えない静かさで、ゆったり過ごせます。緑豊かな広場に面したカウンター席がお薦め!

ちなみに、こちらのカフェは美術館に入場しなくても利用できます。



ここから徒歩15分程のところには、2023年11月に開業したばかりの「麻布台ヒルズ」があります。

麻布台ヒルズ 中央広場

オープンスペースに現代美術の展示もあり、「泉屋博古館東京」とは対照的な空間を楽しめるので、足を運んでみてはいかがでしょう。

奈良美智「東京の森の子」2022

オナファー・エリアソン「相互に繋がりあう瞬間が協和する周期」2023


「泉屋博古館東京」は、中国の古代青銅器、中国・日本の書画などのコレクションが中心の比較的地味な美術館ですが、都会のど真ん中の隠れ家的存在でもあります。ワークショップや講演会も開催されているので、参加してみるのも良いのでは?詳しくはHPにてご確認ください。


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