【アート通信ー74:「水庭」】

 74回目のアート通信は、栃木県那須郡那須町にある「水庭 (みずにわ)」からです。

石上純也「水庭」(2018)

水庭とは、建築家の石上純也氏 (1974-) の作品で、『アートビオトープ那須』にあります。建築家の作品なのに建物でなく景色?庭 ⁇と思うかも知れませんが、こちらは紛れもなく建築家による作品です!


石上純也「木陰雲」(2021) パビリオン・トウキョウにて

石上氏はそこにあった土地の歴史、景色を強く意識する人です。例えば、『パビリオン・トウキョウ2021』の「木陰雲」では昭和2年に建てられた実業家の庭に、廃墟から覗く景色を作り出そうとしていました。

また、近々一般オープン予定の山口県宇部市の、洞窟のようなレストラン「メゾン・アウル」は、“一万年からそこにありそうで、一万年後もそこにありそうなレストラン” というコンセプトで作られています。


飛び石が続く「水庭」(2018)

そしてこちらの「水庭」は、318本の木と160個の池、地面を覆う苔から成り立っています。実はこの景色、元々ここにあったものではなく、牧草地に新たに作り出されたものなんです。

例えば木々は、隣のレストラン・ビラを建設する際に伐採予定だった木を一本一本移植したもので、その配置は全て綿密に計算された設計図に基づいています。また池もそこにあったものではなく、隣の川から引き込み、また戻るように作り込まれています。

ここは元々は森林でした。それが水田となり、牧草地になったその歴史をなぞるように必要な要素が埋め込まれています。

「水庭」(2018) 石のベンチでの休憩も気持ちいい

その作品の中にもおたまじゃくしが住み着き、カルガモが散歩し、蝶も舞っています。歴史をたどり、未来に向かうこの不思議な景色の中で、私たち人間は飛び石をたどって、時には石に腰掛けぼ〜としたり、空を仰ぎ見たり、木漏れ日を探したり、と静かで不思議な世界を体感出来るのです。

「アートビオトープ」入口付近

「アートビオトープ」とは、アートとビオトープを組み合わせた造語で、生命の源となる自然の中で、アートをテーマに人が集い、交感し、生み出されていくものを求めて名付けられました。

アトリエ・ワンの「ホワイトリムジン」がある中庭

受付を兼ねるギャラリーカフェの中庭では、点在するアートを鑑賞したり、お茶を飲みながら寛ぐことも出来ます。


カルティエ現代美術財団の「石上純也 自由な建築」展入口

ところで私が「水庭」を初めて知ったのは、2018年のパリのカルティエ現代美術財団開催の「石上純也 自由な建築」展でした。

カルティエ現代美術財で「石上純也 自由な建築」展 展示風景

展覧会は、連日大勢の人が並んで入場を待つ人気ぶりで、会場では「なんて静かな建築なの・・・」と人々が囁きあっていたのを覚えています。


「水庭」で空を見上げる

“静かな建築・・・” ぴったりな言葉だと思います。

「水庭」は、最寄駅の那須塩原駅からは無料リムジンが出ており、鑑賞には予約が必要です。カフェ、レストラン、宿泊施設、また不定期に開催されるイベントなどもあるので、詳しくはHPをご覧下さい。

時が止まったような、不思議で美しい時間を過ごす事が出来ますよ!







このブログの人気の投稿

【建築巡礼ー5:アールトによるルイ・カレ邸】

【アート通信ー25:ベルリン・集合住宅「ジードルング・ブリッツ」】

【建築巡礼ー10:シャトー・ラ・コストChâteau-La-Coste】