【アート通信ー73:「Chim↑Pom展」】

第73回目のアート通信は、現在六本木の森美術館で開催されている「Chim↑Pom展:ハッピースプリング」からです。

「Chim↑Pom展:ハッピースプリング」ポスター

Chim↑Pomは、卯城竜太・林靖高・エリイ・岡田将孝・稲岡求・水野俊紀の6人のメンバーによるアート集団で、この矢印も含めてグループ名です。ちょっと過激な芸術活動をしています。


例えば東日本大震災後、渋谷駅の連絡通路にある岡本太郎 (1911-1996) の壁画に、何者かが落書きを加えたというニュースを覚えてませんか?その何者かがこのグループです。

チムポムの作品が加えられた「明日の神話」

あの事件(活動)は正しくは落書きではなく、岡本氏の作品外の右下部に、同じタッチで描いた絵を加えたものでした。

ではなぜそうしたのか? それは、

「明日の神話」(1968-1969)は、原爆の炎に焼かれながらも打ち勝つ人間の生命の強さを描いた作品、福島の原発事故でヒバクの歴史は更新され、「明日の神話」も更新されるべき、と思い4棟の原子炉から黒煙が上がっている絵を添えた。

のだそうです。


「LEVEL 7 feat.『明日の神話』」(2011)「PAVILION」での展示風景

この話には後日談があり、けしからん!と非難が沸き起こる中、岡本太郎記念館館長の平野暁臣氏は、“芸術は爆発だ!と言っていた岡本が生きていたらむしろ喜んだだろう”と、なんと記念館で彼らの個展「PAVILION」を開催したのです。そして問題となった作品「LEVEL 7 feat.『明日の神話』」を記念館の収蔵作品にしました。芸術とはかくあるべきですね!


このようにゲリラ的に活動する事が多いアート集団なので、あの森美術館でどのように展示するのだろうと思っていましたが、斬新な展示方法でうまくチンポムの世界を引き出しています。


「Chim↑Pom展」展示風景

展示会場の約半分はアスファルトの道で上層と下層に分かれています。そしてその下層部の天井は低く圧迫感があり、鑑賞者は都会の裏側を徘徊している気分になります。この下層スペースにチンポムの作品によく見られる道や街にまつわる作品が多く展示されています。


「ブラック・オブ・デス」(2007/2013)


例えば、バイクや車で走りながらカラスの剥製を掲げ、カラスの大群を引きつ連れる映像作品「ブラック・オブ・デス」(2007/2013) 。都会のフードロス、カラスの増殖に対する問題提議でもありながら、圧倒的な迫力とある種の爽快感すら感じます。



「ビルバーガー」(2016/2018)


取り壊しが決まったビルの2〜4階の床を四角く切り抜き、そのまま1階部分に積み重ねた作品「ビルバーガー」(2016/2018) は、現代のスクラップ&ビルドをコンパクトに分かり易く表現した作品



「道」(2017-2018)の模型

2017年に台湾の国立美術館で展示された「道」(2017-2018)は、美術館の中から外へアスファルトの道を作り、そこで通常美術館内では禁止されている事項も道路上だから、という理由で可能にした作品。

この作品は模型と映像で紹介されおり、ここから梯子を上ると・・・

梯子を上ってみたら・・・

展示風景:上層部の道

目の前に広がるのはアスファルトの道。先ほどの展示の続きかと錯覚してしまいますが、ここは先程の展示空間の上層部。

私が訪れた時はまだ準備中の様でしたが、ここでは通常道路上で行われる行為、パフォーマンスや路上販売などがランダムに行われるようです。


チンポムは、「LEVEL 7 feat.『明日の神話』」以外にも、震災・津波・原発事故に関する様々なプロジェクトを行っています。

「リアル・タイムス」(2011)

「リアル・タイムス」は、原発事故発生の1ヶ月後に、発電所から700メートルほど離れた敷地内で撮影した映像作品。メンバーが防護服で展望台に向かう際の周囲の様子は、私たちがマスコミの報道で目にしてきたものと異なり、リアルとはこういうものか、と気付かされます。そして彼らはまだ白煙をあげている原発の前で、日の丸を描き、それを放射能のマークへと変化させ高く掲げます。


「Don't Follow the Wind」(2015)

「Don't Follow the Wind」は、観にいくことが出来ない展覧会の名称です。なぜなら、この展覧会は原発事故による帰宅困難区域内で開催されているからです。チンポムが考案し、12組の作家が参加しています。ここでは、大都会東京景色を眺めながら開催中の観られないその展覧会に思いを馳せます。

その他、「気合い100連発」(2011) などユニークで力強い作品もあり、結成から17年の代表作をほとんど全て観られる貴重な機会となっています。


〈虎ノ門ヒルズ駅〉 近くの別会場

表現はちょっと過激で、好き嫌いは分かれるかもしれませんが私は好きです。それは社会の問題点を気がつかなかった視点から驚く手法でバン!と目の前に示してくれるからであり、その潔さが小気味いいからです。


予約制で観られる別会場もあります。

2022年5月29日まで。

森美術館

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