【アート通信ー71:「戸定邸」】
71回目のアート通信は、千葉県松戸市にある「戸定邸」からです。
戸定邸は、昨年2021年のNHK大河ドラマ「晴天を衝け」にも登場した、徳川幕府最後の将軍:徳川慶喜の異母弟、徳川昭武(1853-1910)の隠居邸です。国の指定重要文化財にもなっています。
戸定邸に向かう門は素朴な茅葺き屋根 |
地味な作りの表玄関 |
こちらの建物が国の重要文化財に指定されたのは、明治時代の徳川家の住まいが完全に残る唯一の建物だからです。来客に対応する区画、家族の区画、使用人の区画という3つの区画からなり、それぞれで構成や材木の質が異なります。
「客間」より庭方向を見る |
「二の間」と「客間」に間に見られる欄間の透かし彫り |
例えば、使者を迎える「使者の間」には幸福を呼ぶと言われる〈コウモリ〉、「客間」には〈二葉葵〉、母堂の「座敷」には〈蝶〉といった具合です。
思ったより質素な作りだったな、と邸宅を出て振り返ると徳川家の三つ葉葵の家紋!やはりここは紛れもない江戸時代最後の将軍、徳川家の面影を残す場所でした。
家具の様な洗面台! |
そんな中、とても興味深かったのはこちら、夫婦の為の洗面台です。なんと畳部屋に設置されており、畳に膝をついて使用していました。家具のような重厚な作りで、引き出しには手拭いなど、洗面に必要なものが収められていたとか。
三つ葉葵の鬼瓦 |
丁寧に作られた東屋 |
広い敷地は自由に散策出来ます。庭からは松戸の町並みや江戸川を見下ろせ、松戸が江戸への交通の要所であった事がよく分かります。
季節ごとに彩る花々 |
今回の訪問時は季節・天気があまり良くありませんでしたが、庭では季節ごとの花々が楽しめる様に工夫されており、ちょっと現実から離れたゆったりした時間を過ごせますよ。
また、敷地内には、昭武氏を中心とする徳川家の遺品、1867年パリ万国博覧会関係の資料を展示する「戸定歴史館」もあります。
敷地内に建つ「戸定歴史館」
実は昭武氏とフランスには深い関係があるんです。
1860年ごろよりフランスは、日本から病気に強い蚕や絹糸を輸入していました。そんな縁もあり、ナポレオン3世は、1867年のパリ万国博覧会に日本の将軍を招待します。
将軍名代として赴いた昭武氏は当時13歳でしたが、その後ヨーロッパ各国を表敬訪問しヨーロッパの文化に触れ、その後もパリに残り、留学生活に入ります。
明治時代に代わる混乱期には一時帰国しますが、その後再びフランスに渡り、語学のみならず、文化・歴史・馬術などを学びました。歴史館には、生涯にわたる交流を続けた当時の彼の指導役、ヴィレット中佐と交わした手紙なども展示されていますが、その流暢なフランス語には驚くばかりです。
公園への入場は無料。邸宅と歴史館への入場のみ有料。