【アート通信ー42:「マルク・シャガール国立美術館」】

42回目のアート通信は、フランス・ニースにある世界的な画家シャガール(1887-1985)の「マルク・シャガール国立美術館」(「マルク・シャガール聖書のメッセージ国立美術館」から名前が変わリました)のご案内です。


地中海地方特有の植物が植えられた広い敷地


こちらの美術館はシャガールがフランス国に自身の連作『聖書のメッセージ』を寄付し、ニース市から土地の提供を受けて1973年に開館した国立の美術館です。生存中に建てられた美術館なので、彼の意見も反映されているのが特徴です。


美術館建設に詳しいアンドレ・エルマン(1908-1978)による建物

ユダヤ教徒でもあったシャガールは聖書の世界を表現する為に、連作『聖書のメッセージ』を完成させました。彼は子供の頃より聖書の世界をとても大事にしており、ここを訪れた人が人生の意味を見出いだせるようにと、建物には美術館というより‘家’をイメージしました。また、庭についても、‘神は地球上にまず庭を作った。よって美術館に入る前に庭が必要と考えた’ と言っているように建物同様大事に考えました。


『楽園を追われたアダムとイブ』(1961)の部分

連作『聖書のメッセージ』からは、創世記と出エジプトを描いた『人類の創造』『楽園』『楽園を追われたアダムとイブ』『ノアの方舟』『ノアと虹』『アブラハムと3人の天使』『イサクのいけにえ』『ヤコブの夢』『ヤコブと天使の戦い』『燃える柴の前のモーゼ』『岩を打つモーゼ』『立法の石板を受けるモーゼ』の12点が選ばれひし形で連結された3つのスペースに1枚ずつ、教会に展示されているかのように展示されています。


明るい展示室

こちらには『聖書のメッセージ』以外の作品も制作年順に展示されており、自然光が差し込む広々とした明るい展示室は美術館というよりサロンのようです。


ホールの楽器の蓋の裏側にも美しい絵が!

また、自分の作品を見るだけでなく詩の朗読や音楽の演奏が行えるホールがあるといい、というシャガールの考えから、美術館にはコンサートホールもあります。美しいステンドグラスはこのホールの為のに彼がデザインしたもの。またここで上映される映像には、美術館を訪問したシャガールも写っているので必見ですよ!



庭の中にあるカフェは平和的で美しく、まさにシャガールが望んだ世界のよう

シャガールは1887年にロシアで生まれ、サントペテルブルクの美術学校で学んだ後パリに向かいました。戦時中は、ユダヤ人であった為ナチスの迫害を恐れアメリカに亡命もしましたが、1950年にはフランスに戻り南フランスのヴァンスに落ち着きます。フランス国に作品を寄贈した理由は、自分自身が生まれ変わったように思えたフランスに作品を残しておきたい、と思ったからだそうです。



方向違いで「マティス美術館」も近くにある

美しい自然と穏やかな雰囲気に包まれたこちらの美術館は、その敷地や建物、作品からシャガールの愛のメッセージを優しく発信し続けています。日本語のオーディオガイドもあるので、ゆっくり時間をかけて訪れるのがお勧めです。


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