【アート通信ー37:「PMQ」】

37回目のアート通信は香港島から。
1951年建設の建物をリノベーションし、2014年より各オーナーによる個性的な空間が展開されている人気複合施設「PMQ」です。

〈旧警察宿舎集会所〉側入口

こちらにはデザイン事務所、料理教室、ショップ、レストランやカフェ、ベーカリーなどが入り、不定期ですがワークショップやイベントも開催されています。

中央入口。2つの建物の名前は、隣接する通りの名前にちなんで〈ハリウッド棟〉と〈ストーン棟〉

新たに設けられた2棟を結ぶガラス通路の4階部分は〈屋上庭園〉

「PMQ」という名前は、既婚者向け警察宿舎(Police Married Quarters)の頭文字から付けられています。そう、ここは既婚者向けの警察宿舎だったんですね。多くの警察官を集め、士気を高める為に当時としてはモダンな設備を兼ね備えていたそうです。

アートの魅力

再利用にあたり館内の様々なところにアートが施されているので、歩きながらそれらを探すのも楽しみの一つです。また、インスタ映えするこれらのアートによって宣伝効果が上がっているのも確かなようです。

遠くからも目を引くエレベーター壁面のアート。向かいの1889年から使われている歴史ある階段*との対比も面白い


階段にもアート!

 ‘ここから写真を撮るといいよ’ ‘ここに立つといい感じで映るよ’ というマークまで埋め込まれている床アート

魅力的な店舗

一方、カフェやショップにはここでしか買えない珍しいデザインのものがあり、プレゼントや旅行のお土産に買って帰る人も多いとか。

ディスプレイの仕方も独特

こんなのあったら楽しい!ペーパーホルダー&ペーパーの提案

時間が止まった様な空間のカフェ「ガーデン・ミャオ」

建物の魅力

また、ここの魅力はアートや店舗に留まりません。1951年当時の面影を残す建物自体にも魅力があります。

当時の面影が残る階段室

歴史を感じさせる郵便ポスト

〈ストーン棟〉5階には当時の様子を紹介した展示室があります。それぞれの家のキッチンはなんと共同廊下にあり、その脇にテーブルと椅子を出して食事をしていたそう(!)きっと食事時は廊下が街の食堂の様になった事でしょう。

現在はショップに分割されているかつての住居スペースと共同廊下


現在はジュエリーショップとして利用されているこのスペースがかつての食事スペース。ちょうどブルーのガラス窓の向こう側がキッチンだった

そんな生活を送っていたせいか宿舎全体が家族という意識があり、今でも同窓会が開かれたりするそうですよ。ちなみにトイレは共同で現在と同じ位置、廊下の端でした。

再利用のきっかけ

実は、この建物を取り壊さず再生利用しよう、という動きが起きたきっかけにはもう一つの歴史があります。

宿舎としての役割を終了し競売にかけられそうになっていた2007年、ここに1889年建設の「中央書院(開講は1862年)」の遺構がある事が分かりました。中央書院とは香港最初の西洋式公立学校で、孫中山など中国トップクラスの人物を数多く輩出した由緒正しい学校です。これをきっかけに遺構を保存しようという動きが生まれ、更に警察宿舎の建物も歴史建造物と認定され、有効利用へと方向変換したのです。

「中央書院」の遺構は、地下に保存されており一般にも公開されています。

中央広場からも一部、強化ガラスより地下展示場を覗ける

解説を見ながら見て回れる地下展示場


近年、香港では歴史的に意義のある建物を保存活用しようという動きが活発なようです。古い建物を有効利用するには難しい点もあるようですが、こちらの「PMQ」は思い切ったアートを取り入れたり、人の出入りが生まれるイベントを開催したりと工夫を凝らし、これからも更に変化していきそうなスポットとして注目されています。

*壁面にアートが施されたエレベーター向かいの階段は中央書院時代のもので現在も利用されている。

1889年から使われ続けている花崗岩の階段










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